年200冊のペースで“やんわり”と読み込む

一知半解の状態になれば、「今日、話を聞いた先生の言いたかったこと、狙っていることはこういうことだろうな」と、なんとなく把握することができます。

その理解をベースに提案を組み立てることで、研究所の先生から、「おっ、ところどころ誤解もあるが、こいつは自分たちのやっていることをわかっているな」という評価をいただくことができたのです。

私はこの一知半解の手法を続けていきました。結果的に年に200冊のペースで書籍を読んでいたと思います。1970年から1977年の8年間、この仕事に従事していたので、合計で約1500冊も異なる分野の本を読んだことになります。

村上憲郎さん
 

期せずしていつの間にか成し遂げていた、この読破冊数はなかなかのものだと思います。1つの分野に絞って関連書籍をひたすら読む人はいますが、さまざまな分野を、やんわりとした「一知半解」の理解ではありましたが、1500冊も読んだ人は、世の中を見渡してもそうそう出くわすことはないはずです。

そしてさまざまな分野にわたって1500冊も本を読んでいると、分野ごとのつながりに限らず、共通点や関連性が見えてきます。その繰り返しによって、私はあるときを境に、脳の中にあるフレーム・オブ・リファレンスの形成をはっきりと「意識」できるようになったのです。

読書量に比例して脳内の知識と知識がつながり出す

それ以降、新しい分野の先生にお会いし、その先生の分野の話を聞いて易しい解説書を読むことは、脳内にある「知の参照体系(フレーム・オブ・リファレンス)」の、「隙間」を埋めるような感覚を認めるようになりました。

あるいは、何か新しい知識を得たときに、「この知識は、この間読んだあの本の知識とつながりそうだ」ということを直感的に感じられるようになりました。さらには「これからどんな産業がより伸長していくか」とか、「ある分野がどのように発展していくか」といった想像力も的確に働くようになりました。

本を開くと飛び出してくる魔法の文字
写真=iStock.com/efks
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その1つの成果が、日立電子以降の私のキャリアであり、また前述の日経新聞の「村上憲郎のグローバル羅針盤」のコーナーであったといえるでしょう。

フレーム・オブ・リファレンスの形成とは、言い換えれば分野やジャンルを超えて、関連付けたり発展させて考える土台づくりです。意識的に形成していくことで、マクロな視点の獲得や、柔軟性を身につける訓練となるでしょう。