褒め言葉としての「でっちあげ」の技術

量子コンピュータの開発やスマートシティ関連のニュースが出た際に、メディアの方々に意見を求められることがあります。その求めに応じて、できる限りのコメントをするのですが、するとメディアの方々に、驚かれることも珍しくありません。

「どうしてそんなに幅広い分野について、詳しくご存知なのですか?」
「今後の展望について、そんなに正確に言い当てられるのはなぜですか?」
「どんな情報を握っているのですか?」

という具合です。

そのときに私はつい、「そんなもの、『でっちあげ』ですよ」と返してしまいますが、実はこれこそがフレーム・オブ・リファレンスの効用だろうと私は考えています。

というのも、フレーム・オブ・リファレンスを形成することで、どんなテーマに巻き込まれても柔軟に対応できるようになるばかりでなく、そのテーマの領域だけにとどまらず、一気に周辺領域にまで思考を広げることができるようになるからです。

知識を広く脳の中へしまい込んでいることで、一見すると関係のない引き出しからアイデアを引用することもでき、自分が目の前に抱えている課題を打ち破る、まったく新しい、日常感覚外の方法さえ思いつくことができてしまうのです。

解決する思考プロセス
写真=iStock.com/marrio31
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フレーム・オブ・リファレンスを充実させればさせるほど、わからないところはわからないままでも、周辺領域の助けを借りながら、「でっちあげ」で切り抜けられる技術を身につけることができました。

「でっちあげ」は決してその場しのぎの生半可なテクニックではなく、広い視野で物事に触れ、本質を感じ取り、知の参照体系を築いてきたからこそ、なし得る技能なのです。

「でっちあげ」の技術で“ミスターAI”

以上のようなフレーム・オブ・リファレンスに基づく「でっちあげ」の技術が、その後の私にどのような影響を及ぼしたかも述べておきましょう。

私は日立電子の後、当時のコンピュータメーカーの世界的企業であった米ディジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)の日本法人に、1978年に転社しました。そのDEC時代、当時の通商産業省(現・経済産業省)が、1981年に開始した、人工知能マシンを開発する「第5世代コンピュータプロジェクト」の、担当部長に選ばれました。

このときDEC本社から、ダンボールにいっぱいの人工知能の学術文献が送られて来たのですが、それらをあっという間に読み終え、「ミスターAI」と呼ばれるほど、人工知能への造詣を深めることができたのです。