92歳になった母親は2021年2月に要介護5となり、特養に入所
小林さんの長男は、県外の大学を卒業。現在は社会人となり、県外でひとり暮らしをしている。長女は現在県外の大学に入学し、下宿中だ。今は2人とも祖母の介護に直接かかわることはできないが、家にいた頃は、施設へ面会にいってくれたり、小林さんの話を聞いてくれたりしていた。
「親と子どもの世話を同時にするダブルケアとはいえ、振り返ると、子どもたちの受験の頃は、母の認知症もそこまでひどくなかったため、乗り越えられたような気がします。ただ、私が子どもたちの受験のほうに意識がいってしまい、母のことにあまり目を向けていなかっただけかもしれませんが……」
自分を蔑ろにすると不機嫌になる母親だったようだが、子どもたち優先でよかったのだと思う。小林さんはずっと母親に対する罪悪感にさいなまれてきたと言うが、ちゃんと正しい優先順位がつけられていたのだ。
「当時は疲れていたし、時間もなかったので、少しでも時間が取れる時は、夫と外出したり、子どもたちと楽しい話をしたり……。やはり夫のサポートと子どもたちの優しい言葉で気持ちが落ち着き、それがパワーになったと思います」
夫は通院の送迎や、買物などをかって出てくれた。
小林さんにとって、フルタイムの仕事をしながら認知症がひどくなった母親の在宅介護をしていた頃が疲労とストレスのピークで、その後、母親が施設に入所してからは、不眠症も完治し、体調は回復。ただ、以前起きた不整脈に関しては命にかかわる問題のため、要経過観察としている。
92歳になった母親は、2021年2月に要介護5となり、特養に入所した。
今度は夫の両親の介護問題が浮上した
「一人っ子の私は、ある意味、他に頼る身内がいないと自分に言い聞かせていたので、介護をする覚悟はできていたと思います。それでも一番つらいと思ったのは、いろいろ自分なりに考えてしてあげたことが、母からしてみればほとんどが恨みつらみになっていたことです。幸いにも同じような立場の方が近くにいたり、ケアマネージャーさんも良い方だったので、話を聞いてもらったり、情報交換をしたりできたので救われましたが、たった1人だったら、ここまで頑張れたかどうかわかりません」
現実の相談相手の他にも、わずかな1人時間にSNSを利用し始めて、同じような境遇の人たちと出会い、悩みを共有し合うことで困難を乗り越えた。
「もともと母と衝突することがたびたびあったので、介護となったときは義務として向き合っていたというのが本音かもしれません。介護が大変な時期は、正直言ってやりがいも喜びも感じることはありませんでしたが、母の症状が進んで寝たきりになり、攻撃性が消えたことで、私も素直な気持ちで接することができるようになりました。今は母が穏やかに微笑んでくれることが、私の喜びでもあります」
小林さんの母親の介護問題はようやく解決の方向に進んでいるが、小林さんが休息できる日はまだ先になりそうだ。なぜなら、今度は夫の両親の介護問題が浮上しているからだ。
今年に入って80歳の義母がくも膜下出血を起こして倒れたが、81歳の義父は救急車の呼び方がわからなかったという。幸い、義母は一命をとりとめ、後遺症も残らず無事退院したが、義実家の近くに住む夫の妹(既婚)や弟(独身)は、義父は明らかに認知症だと言い、誰が介護のキーパーソンになるか揉めている。
「介護経験者として思うことは、これから先、親の介護が必要になるのが分かっているのなら、介護する側が先に情報収集をしたり勉強をしたりしておくこと。介護費用に関しては、やはり万が一の時のことについて、親や兄弟と話し合いを持つべきだと思います」
小林さんの夫は妹や弟と話し合いたいと考え、2人に呼びかけている。
親を介護する際に念頭に置いておいてほしいのが、「優先順位をつけること」だ。親が一番なら迷うことはないが、子どもや仕事などがそれより勝っているのなら、何を差し置いてもそちらを大切にするための方法を考えてほしい。
「親と子を比べるなんて……」と思うかもしれないが、あれもこれもと欲張れば、すべてを失いかねない。そんな究極の選択のような状況に陥るのがおかしいのだが、残念ながら、現状介護のキーパーソンが自分を守るすべは、これが一番だと筆者は考える。
決して優先順位を間違えないでほしい。