行動を咎めると激昂。90歳とは思えない力で娘の胸ぐらを掴んだ
2019年4月。90歳になった母親は要介護2に進んでいた。50代の小林さんは、介護と仕事との両立が難しくなり、フルタイムの仕事を続けることを断念し、パートで働き始めた。
5月、母親は骨粗鬆症による圧迫骨折が発覚し、3カ月入院。
退院後、母親の認知症は急激に悪化していた。夜中に何度も電話をかけてきたり、インターホンを鳴らしたりすることは日常茶飯事になり、小林さんは睡眠不足から不眠症に。また、母親は夜中に家を出て、ブツブツ言いながら家の周りに落ちているゴミを拾ったり、昼間に近所の家に勝手に上がり込んだりなど、周囲に迷惑をかける行動が増える。
夜中に外で物音を立てられては近所迷惑になると思い、母親を家の中に入れ、行動を咎めたところ、突然母親は激昂。胸ぐらを掴み、90歳とは思えない力で左右に振り回してきた。
「私のことがよほど憎らしかったのか。殴りたい気持ちだったのでしょうか……。私が母に手を上げたことはありませんでしたが、このときばかりはとても悲しくなったのを覚えています。私は、『母から逃げ出してしまいたい』『いっそ消えてしまいたい』と思ったことは何度かありますが、辛いと感じた時こそ、母と距離を取り、会話もできるだけ必要最小限にするよう努めていました」
母親の生活は昼夜逆転し、食事や入浴、着替えにまで介助が必要になっていった。
そして11月。この頃、家の真向かいとはいえ、母親の1人暮らしに限界を感じていた小林さんは、介護老人保健施設に入所させることを考え始める。
母親に介護老人保健施設のことを話し、事前にその職員が面会に来ると、なぜか自分の家が売られると思い込み、職員に暴言を吐き、睨みつけるなどして激しく拒否。小林さんは夫と2人で数カ所見学に行き、その中で近くて設備や雰囲気の良い施設に決めた。
母親には、「寒くなってきたけど、火を使うのは危ないし、エアコンはリモコン操作が難しいから、冬場だけでも施設に入ったら安心じゃない?」と伝えたところ、しぶしぶ承諾。
約3カ月後、介護老人保健施設の退所期限が迫ってきた2020年1月に、2年ほど前から申し込んでいたグループホームに空きが出たとの連絡を受け、移った。