懐疑派は「憲法違反ではないか」

それに対してワクチン懐疑派は、現在、流行している新型コロナウイルス感染症は風邪の一種で、しかもドイツでは、インフルエンザよりも被害状況が軽微なほどなのに、なぜ、ワクチン接種が強制されなければならないのかと反発する。

彼らにしてみれば、ワクチンは受けたい人が受ければよい。たとえ集団免疫が達成されたとしても、ウイルスがゼロになるわけではないのだから、これまでインフルエンザと共存してきたように、各自が注意しながら、コロナとも共存すればよいという考えだ。

また、現在出回っている新型コロナウイルスのワクチンは、どれもまだ長期的な安全が十分に確認されないまま、緊急認可されたものだ。だから、まだもう少し様子を見たいと思っている人も大勢いる。

いずれにせよ、ワクチン接種者が増え、感染の危険が下がれば、是非ともワクチンを接種しなければならない理由は消える。それにもかかわらず、未接種者の基本的人権が制限され続け、その回復にワクチン接種が条件となるなら、それは憲法違反だという考え方が生まれているのだ。

そして、まさにこの考えが、ワクチン接種派にとっては反モラルの象徴で、許し難いのだから、意見は絶対に噛み合わない。

自由を求めワクチンにすがりつく

2カ月ほど前までは、これら両方の意見が主要メディアでも取り上げられていたが、奇妙なことに、今、それが忽然と消えてしまった。そして、まるで当たり前のように、「ワクチン接種がどんどん進んでいる」、「接種が進むことによって、急速に自由が戻ってくる」などという話ばかりが明るいニュースとして報じられている。しかもそこには、うれしそうな表情の高齢者の映像が添えられる(高齢者からワクチン接種を始めたので、2度の接種を終えたのは高齢者が多い)。

5月4日、ワクチン接種者に対する制限の解除内容が閣議決定され、まもなく両議会を通過する予定だ。皆が望んでいることを決める時の与党は強い。これで国民の機嫌もよくなり、支持率が上がるだろう。また、接種に対するモチベーションもさらに上がるに違いない。

しかし、よろこんでいる人たちは、政府が、ワクチンの効果は約半年で、半年後には再び接種を、と言っていることを知っているのだろうか。しかも、変異種もおそらく次々と現れる。現在の接種完了者のよろこびは、いったいいつまで続くのか?

ドイツでは今、コロナにだけは罹ってはいけない。たとえ高齢でも、コロナで死ぬことだけは許されない。鼻の前に人参を吊るされた馬のように、自由とコロナフリーの夢を目の前に吊るされた人たちが、異なった意見を持つ人たちを蹴散らしながら、国民皆接種に向かって必死で走っているように、私には見える。

州によっては、5月9日あたりから、ワクチン接種完了者に対するいくつかの制限解除や、レストランやカフェの戸外の営業を許可する動きが出始めている。感染者も重症者も稀である若者や子供が、ここでも我慢を強いられているように感じる。

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