「上方比較」は自分を高めることができる

他人と自分を比較するもう一つの理由は、自尊感情(自己肯定感)を高めることです。

嫉妬
写真=iStock.com/tuaindeed
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人と比較をするときには、自分よりやや優れた他者と比較する「上方比較」と、自分よりも不運・不幸な他者と比較することで、自分の慰めや幸福感を増やす「下方比較」が存在します。

上方比較については、自分より“少しだけ”優れた他者を比較の相手として選びます。これは、ライバル心をもやすことで、自身の向上につながるという良い側面を持ちます。

また、面白いことに、上方比較をする理由の一つに、人は、他者の優秀な成績を自分自身に結びつけて同一視する過程があるためだとする説も存在しています。例えば、身近に、エリート、美人、お金持ち、などがいることを誇らしく思っているような人の感情は、このような同一視の部分があるのかもしれません。

「下方比較」で幸福感・安心感をえる

自尊心を高めるための比較というと、よりわかりやすいのが、下方比較です。これは、自分より下、と思う相手と比較をし、自身が幸福感などを得るために行う比較です。中でも、(自分より)優れている点がたくさんある、と思っていた相手が自分より不幸になるほど喜びを感じやすく、その時他人の不幸を喜ぶ脳の状態になっていることも明らかにされています。

10年くらい前になりますが、日本で海外製の超高級スポーツカーが数台玉突き事故を起こした時、そのニュースは、世界中の人々に「悲劇」としつつも独特の感情をもたらし多くの皮肉ったジョークとともに報道されました。ここにもおそらく、スーパーカーに乗る優れた他人の不幸を喜ぶ感情があったのでしょう。

度を過ぎた下方比較の例としては、他人の不幸がたまたま目についたのではなく、他者をあえておとしめて不幸にすることによって、自分の主観的幸福感を高めるというものがあります。これらは中傷や、社会的偏見、敵意を含んだ攻撃行動、スケープゴート化といったような非社会的行動に結びつきます。

下方比較は、脳でも喜びの反応として示され、程度差はあれ、誰にでも起こりえる感情です。そのため、日常の中で人の不幸を聞いて少しホッとすることがあっても、その瞬間の自分を「本当に嫌なやつだな」と過度に卑下する必要はありません(もちろん、人の不幸を喜ばないでいられれば一番よいのですが)。とくに、研究では、重い病を抱えた人などは、より悪い状態と比較することで自身の心の安定、自尊感情などを保つことも示されおり、下方比較が一概に悪いものとして扱われていません。

一方で、日常的な人間関係の中で非常によく見られる度を過ぎた下方比較は、客観的な自分の立ち位置を知ることが目的ではなく、優劣をつけることで自尊感情を高めたい人によって行われやすいので、これが多くの人の悩みの種になります。では、どのような人が、優劣をつけるための比較を行う傾向にあるのでしょうか。