実際にリアルな体験として作品を見る意味

今は、アート作品について、インターネットや本などで知ることができる便利な時代ですが、私は全国の美術館などを訪れ、できるだけ実際にアート作品に触れるようにしています。ひとつの理由は、アートを見に行く体験そのものに価値があると考えているからです。現地までの移動や、途中で食べたもの、見た光景など、すべてがアート体験となっています。

また、私の場合、パソコンや本でアート作品を見ても、どうしても情報としてそれを捉えてしまいがちで、没入することができない傾向にあります。でも、作品の現物を目の前にすると、その世界にじっくりと浸ることができ、アートの心地よいシャワーを浴びているような感覚になります。

和佐野有紀さん
撮影=西田香織
PROJECT501にて

2020年夏、ミラノを拠点に活動されている廣瀬智央さんの個展「地球はレモンのように青い」を観に行ったときは、部屋いっぱいにレモンが敷き詰められていて、(でも実はリアルなレモンからではなくレモンの香料が発する)香りがたちこめている中で作品を鑑賞しました。このような非日常の体験は、やはり現地に行かないとできません。普段の日常とは違う場所に身を置くこと、体験に没頭することで、いろいろな気づきを得ることができます。私はスキーが好きなので、よく行きますが、いつもとはまったく違う身体感覚に没頭すると、都会に戻ってきたときに世界が違って見えてくる、いわゆる異化作用を実感します。

アートを観に行くことも、同じような効果があります。現物を見るのと、本などで見るのではサイズや質感などから受ける印象も変わるので、できるだけ美術館やギャラリーに足を運ぶことをお勧めします。