ゆとり教育は失敗だったのか。国立台湾大学准教授の小松光氏と京都大学大学院准教授のジェルミー・ラプリー氏は「ゆとり教育で日本の学生の学力は低下していない。学力水準はこの20年間ほとんど変わらず、高水準を維持している。データを見極め、思い付きで教育政策をいじらないことが重要だ」という――。

※本稿は、『日本の教育はダメじゃない 国際比較データで問いなおす』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

教室内で、挙手する子供たち
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

日本の教育水準はアメリカよりも圧倒的に高い

さて、それでは学力の国際比較に入りましょう。ここで使うデータはピザ(PISA)のものではありません。もう1つの大きな調査であるTIMMS(ティムズ)のものです。ティムズの正式名称は「国際数学・理科教育動向調査」といいます。

ピザと同じように、世界の子どもたちの学力を国際的に比較するための調査ですが、いくつか違いがあります。一番大事な違いは、測る学力のタイプです。ティムズは「学校で習った内容をきちんと覚えていて使えるか」を測っています。

一方で、ピザは「学校で習った基礎的な内容を、新しい目的に対して創造的に使えるか」を測っています。つまり、ティムズが、読者の多くが小中学校時代に求められた学力、いわば「20世紀型学力」を測っているのに対して、ピザは、今という変化の多い時代に必要とされる「21世紀型学力」を測っていると考えてよいと思います。

さて、ティムズの結果です。ティムズは4年に1度行われています。本書の内容に関する限りでは、どの年のデータを使っても特に変化がないので、以下では2015年のデータを使います。

ティムズには算数(数学)と理科の2科目があって、小学4年生と中学2年生を対象としています。すべてのデータを見ていくのは大変ですし、結果に大きな違いもありませんから、以下では中学2年生の結果を見ていくことにしましょう。

結果は図で示しますが、その前に考えてみてください。中学2年生の調査に参加した国は39カ国です。日本は何位でしょう? アメリカはどうですか? 本書では、しばしばアメリカと日本の対比をしますが、それは、日本がこれまでアメリカの教育政策を輸入・模倣してきたし、今もしているからです。

ですが、アメリカの教育は本当にそんなに素晴らしいのでしょうか?

では、日本とアメリカの順位です。中学2年生の数学では、日本は5位、アメリカは11位でした。理科では、日本は2位、アメリカは11位でした。ランキング20位までを図表1に示しましたので、見てみてください。

20世紀型学力(上位20位まで)
出所=ティムズ2015年