「新しい学力観」をもとに実施されたゆとり教育
まず、ゆとり教育について思い出しましょう。ゆとり教育に関する議論が活発になるのは1980年代からです。
第2次中曽根内閣が臨時教育審議会というものを設置し、そこで従来の日本の学校教育への反省が行われます。その中で、日本のかつての学校教育が個性を重視してこなかった点が問題視され、これからの日本の子どもたちがつけるべき学力が再定義されました。
知識から創造性へと重点を移した「新しい学力観」の登場です。この新しい学力観に沿った形で、その後、教育制度が改定されていきます。その目玉の1つとしてゆとり教育は小中学校では2002年から、高校では2003年から実施されました。
小中学校では授業内容の3割が削減され、削減分は高校に移行され、同時に、授業時間数も削減されました。しかし、2003年、2006年のピザテストの結果により学力低下が問題視されるようになりました。
これを受けて第1次安倍晋三内閣が2006年に設置した教育再生会議で脱ゆとり教育が議論され、2011年以降、脱ゆとり教育が実施されました(小学校は2011年から、中学校は2012年から、高校は2013年から)。
ゆとり教育で学力が低下しているように見えるが…
さて、このゆとり教育とピザの関係を、図表4を使って見てみましょう。図表4-aは、日本のピザ3科目の平均点を示しています。
確かに2000年から2006年にかけて点数が低下しています。この点数低下をゆとり教育と結びつけたくなるのもわからないでもありません。ですが、この議論をするときに、ピザに参加しているのが15歳の子どもたちであることを勘案しなければなりません。
15歳の子どもたちの学力は、小中学校の9年間の学習によって培われたものです。したがって、ピザのテストを受けた時点でどのような教育を受けているのかだけでなく、それまでにどのような教育を受けてきたのかも考えなければならないのです。
一時点でなく、過去の教育についても考慮するために、ピザに参加した子どもたちが、小中学校で合計何時間授業を受けてきたのか(「総受講時間数」と名付けます)を計算してみました。それを図にしたのが図表4-bです。
15歳の子どもたちの総受講時間数は、ゆとり教育導入の2002年以降に低下し、2011年と2012年に底を打ちます。そして、脱ゆとり教育の開始以降、総受講時間数は増加します。