ゆとり教育で日本の学力は低下していない
なお、ティムズや後述のピザの参加国数・順位は、報告によって多少の変動があります。これは、実際に参加した国すべてを参加国とするのか、比較に十分な精度のデータが得られた国だけを参加国とするのか、などの基準が報告によって異なるためです。
ただこうした細かな差は、本書の議論には影響しません。ティムズのランキングでは、日本を含む東アジア諸国が上位を独占しています。つまり、少なくともティムズの測る学力については、日本を含む東アジア諸国は、欧米諸国よりも高い水準にあります。
ここまでで、日本の子どもたちが(そして大人も)高い学力を持っていることを理解していただけたかと思います。それでも、日本の高い学力がだんだんと低下してきているのではないか、という不安をお持ちの方もいるでしょう。
実際、「ゆとり教育」は学力低下を理由に撤回されてしまいました。このように、学力の経時的変化は教育政策に大きな影響を与えるので重要です。ですので、学力の経時的変化を、第1章の締めくくりに検討してみようと思います。
経時的変化を見るためにピザのデータを使います。ピザの科目は基本的に、数学、理科、読解の3科目ですので、全体的傾向を見るために、3科目の平均点の経年的変化を見てみましょう。
最初に気づくのは、日本の成績が一貫して下がっているとか、一貫して上がっているという傾向がないことです(図表2-a)。
日本の成績はこの18年間で上がったり下がったりしており、一貫して低下しているというような傾向は認められません。科目ごとに見ても、一貫した低下傾向はなく(図表2-b)、気になる点と言えば、2006年以降の数学の成績がそれ以前に及ばないことです。
それでも、2006年以降低下傾向が見られるわけではなく、成績は安定してはいます。とりあえず、日本の成績が一貫して低下しているわけではない、というのは素晴らしいことです。
ピザの点数が下がり続けている「教育大国フィンランド」
というのも、世界には成績が一貫して低下している国もあるからです。例えば、教育で有名なフィンランドがその代表例です。フィンランドは2003年のピザにおいて、3科目中2科目で世界一になったことは先に触れました。フィンランドのピザ3科目の平均点の変化を、図表3に示しました。
フィンランドは、2006年のピザで3科目平均553点という非常に高い点数を記録しましたが、その後点数は下がり続けています。そして、2018年には3科目平均の点数が516点になってしまいました。
こういう国はフィンランドだけではありません。他にオーストラリアなども、ピザが始まった2000年頃には欧米諸国の中でかなり高い位置にあったのが、今では普通の国になってしまいました。こうした事例と比べると、日本が比較的高い成績を安定して取り続けているのは、「大したこと」であると私たち著者は感じています。
それでは日本の学力が比較的安定していることと、ゆとり教育はどういう関係にあったのでしょうか? ゆとり教育は、学力低下が原因で撤回されたことになっています。そのあたりをもう少し見ていくことにします。