大企業も中小企業も「賃金制度の見直し」で減給・降格当たり前に
ここまではマクロの給与の見通しであるが、個々の企業に着目すると単純に給与が下がるという話だけではない。
コロナ禍を契機に業績不振の企業を中心に賃金制度の見直しを行う企業が増えている。
人事部長で構成する日本CHO協会の調査(2021年1月25~2月10日)によると、人事・評価制度の抜本的な見直しは予定されているかという質問に対し「具体的に計画している」が38%、「検討はしているが未定」が36%となっている。
なぜ今、人事・評価制度の見直しが必要なのか。
一部上場企業のサービス業の人事部長はこう語る。
「コロナ禍の業績不振で来期の見通しが明るくない中で人件費予算も厳しくなることが予想されている。人事部としてはこれまで甘かった人事評価制度を厳しくする方向で検討している。コロナ前の業績好調のときはほとんどの評価が真ん中のB評価やA評価に集中し、それなりに昇給していた。しかし今後は評価項目の内容を明確化し、厳格に評価し、評価が高ければ若くても昇格・昇進させる一方で、評価が低い社員は降格させる。じつはこれまでは100人昇格しても、降格するのは1~2人程度というユルユルの仕組みだったが、今後は50人程度が降格するような厳しい運用を行っていく予定だ」
評価制度の厳格化によって給与減を伴う降格を実施していくという。この考え方は大企業に限らない。あしたのチームが実施した調査(2021年1月27日~29日)によると、従業員300人未満の企業の経営者のうち「直近1年で報酬(給与)に見合う成果を出していないと思う社員がいると回答したのは62.7%。逆に報酬以上の成果を出していると思う社員がいると回答したのは76.7%。給与と成果が不均衡だと感じている経営者が多い。
そして「期間内の成果(出来高)に応じて給与額を増減させる賃金制度にしたいと思うか」の質問に対し、「とても思う」が24.0%、「まあ思う」が54.0%と、8割近くが成果重視の賃金制度の見直しを望んでいる。
コロナ不況で人事部は「痛みを伴う賃金改革」を本気でやる
業績が好調であれば賃金制度を見直す企業は少ないが、業績不振が続くと人件費の負担が重くのしかかり、成果主義をより強化する傾向にあるのは過去の不況時も同じだった。
だが、今回のコロナ不況において人事部は「社員の痛みを伴う改革」を本気でやろうとしている。
中でも、注目されているのがジョブ型人事制度だ。
日本企業が導入しようとしているジョブ型は2つある。
一つは、日本的ジョブ型とも呼ぶべきもので、組織目標に応じて担当者、係長、課長などのポストごとに発揮すべき役割を定義し、役割の責任と役割達成度で給与(役割給)が決まる。
もう一つが、アメリカ的なジョブ型で、職務(専門性)に着目し、職務内容を明確に定義した職務記述書に基づいて評価され、給与(職務給)が決まる。役割ごとに給与を格付けしたものを役割等級、職務の難易度で格付けしたものを職務等級と呼ぶ。
前出の日本CHO協会の調査によると、今年(2021年)中に「ジョブ型雇用」に取り組むべきテーマと考えている企業が26%もある。あしたのチームの調査でも、導入したいと思う経営者が3.3%、興味・関心はある経営者が52.7%に上る。
いずれにしても役割等級や職務等級の2つの制度に移行すると間違いなく今までの給与が大きく変化する。なぜなら年功的給与を完全に否定した仕組みであり、役割や職務レベルが低いと評価されると給与が下がるからだ。
上司に「毎日がんばっている」とか「彼なら課長が務まる能力がある」とかいう曖昧な評価で予定調和的に給与が上がることはなくなる。
実際、役割等級制度を導入しているネット広告会社では「同じ40歳でも年収600万円の等級の社員もいれば、30代から等級がそのままで年収300万円の社員もいる」(人事担当者)のが現実だ。