コロナ禍でジョブ型人事制度を導入する企業が増え、社員間に分断や軋轢が生じている。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「職務範囲が明確なジョブ型はテレワークと相性がよく、脱年功序列で人件費削減効果もある。一方、『私の仕事の範囲はここまで、それ以上やりません』という社員が増え、賃金制度を巡っては若い社員と40・50代以上の昭和社員の対立など波乱が予想されます」と指摘する――。
サムアップとサムダウン
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多くの会社内の人間関係がギスギスし始めている理由

会社に殺伐とした空気が漂い始めている。コロナ禍で働き方が大きく変わったことで、新たな職場の軋轢や分断が続発しているのだ。

きっかけはテレワークだ。

難なくテレワークできる人と、したいのにできない人の間での溝は深い。医療・介護サービス会社の人事部長はこう語る。

「緊急事態宣言の再発令により在宅で仕事ができる人はテレワークを呼びかけているが、現場の社員は出社しなければならない。在宅勤務している管理部門の担当者が現場の責任者に『早く出勤データを送ってくれと』と催促すると、『こっちも忙しいんだ。在宅でのんびりと仕事をしている人にはわからないかもしれないけど』と、嫌みを言われることも多いと聞く。最近は現場の社員とのコミュニケーションにも支障を来している」

溝は、同じ部署内でもテレワークができる人とできない人との間にもある。建設業の人事部長はこのように嘆く。

「人事部門では給与業務のスタッフは出勤せざるをえないし、経理部門の一部の担当者は月末の締め日は毎日出勤している。逆にそれ以外のスタッフはほとんど在宅勤務。出社している社員は、最初は『何で私たちだけが出社しないといけないの』という不満の声もあったが、(テレワークができないため)最近は人事異動を申告する社員まで出ている」

テレワークに関する不公平感はどこの職場にもあるかもしれない。その不満が溜まりに溜まると職場の人間関係も悪化しかねない。

職場に分断をもたらす火種になる「ジョブ型」人事

テレワークと並んで職場に分断をもたらす火種になりかねないのが、「ジョブ型」人事制度だ。

もともとコロナ前の2018年頃から経団連が導入を提唱していたものの、人事担当者の間では現実感に乏しかった。ところが、20年春以降の感染拡大によって一気にブームに火が付いた。

ジョブ(職務)型は職務範囲と裁量が明確であるため、オフィスと離れて仕事をするテレワークと相性が良く、生産性が上がると思われているからだ。

実際にジョブ型の導入を検討している企業が増えている。

リクルートキャリアの調査によると、導入企業は12.3%。従業員5000人以上の企業に限れば19.8%となっている。

「導入していないが、検討中である」企業が23.5%。これも従業員5000人以上になると28.3%と大企業ほど導入への関心が高い(「ジョブ型雇用に関する人事担当者対象調査」(2020年9月26日~30日)。