ジョブ型人事で「現行の年功型賃金制度を変えたい」という本音

導入の理由は、

「特定領域の人材(デジタル人材など)を雇用するため職種別報酬の導入が必要」(54.3%)
「新型コロナウイルスの影響により、テレワーク等に対応し業務内容の明確化が必要」(46.3%)

などがあがっている(複数回答)。

やはりジョブ型は離れて仕事をするテレワークに向いているというのは理解できる。だが、それに便乗するような形で、デジタル人材など報酬の高い優秀人材を獲得するために現行の年功型賃金制度を変えたいとの意識もあるようだ。

本来のジョブ型雇用と日本型雇用とは真逆の関係にある。

本来のジョブ型雇用(欧米型)は、職務内容を明確に定義したジョブディスクリプション(職務記述書)に基づき、職務をこなせる専門スキルを持つ人を採用・任用する。まず、ジョブありきで、そこに人を当てはめる「仕事基準」だ。

給与も担当する職務(ポスト)ごとに一律に決まるのが基本だ。日本のように人事異動や昇進・昇格の概念がなく、給与を増やすには職務価値の高いポストに必要なスキルを自ら修得することが求められる。

採用においても新卒・中途に限らず、必要な職務スキルを持つ人をその都度採用する「欠員補充方式」が一般的だ。

日本型雇用を脱年功賃金にすると給料激減や就活大混乱が起きる

一方、日本型雇用はどうか。ご存じのように、職業スキルのない学生を「潜在能力」を基準に採用する「新卒一括採用」に始まり、入社後にOJTやジョブローテーションによってさまざまな仕事を経験させて長期にわたって育成する。

人事異動も頻繁に行われ、配置や昇進・昇格は蓄積された保有能力や適性を評価し、「この人ならこの仕事に向いている」と、人に仕事を当てはめる「人基準」だ。

給与も、求められる「遂行能力」を等級ごとに定義し、等級に応じて決まる。ノースキルの新人を長期に育成する以上、一律初任給を基本に生活保障給としての定期昇給と、培った能力に見合った「能力給」(職能給とも呼ぶ)が毎年積み上がっていく。

こうした日本型の人事制度によって長年にわたって今の職場風土が形成されてきたわけであるが、これを一挙に欧米のジョブ型に変えたら、脱年功によって中途半端な専門性しか持ち合わせていない人は給与が下がるなど職場は混乱するだろう。

ビジネスに関する論争
写真=iStock.com/mediaphotos
※写真はイメージです

また、専門スキルを持たない学生の就活が困難になるだけではなく、送り出す大学も教育内容の変更を迫られるなど混乱するのは必至だ。