希望しても正社員になれなかった就職氷河期世代をコロナ禍が襲っている。労働経済ジャーナリストの小林美希さんは「政府の対策は10年、20年遅い。不本意にも非正規で働いている氷河期世代は、『このままずっと非正規で働き続けるしかない』とあきらめている」という――。
長い道のりを歩いて来てくたびれている男性の足元
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スキルを身に付けられず中年になった

「コロナの影響でただでさえ仕事が減っているのに、年齢的に不利な私たちがどうやって正社員になれるのだろうか」

小野明美さん(仮名、40歳)は諦め顔だ。2004年に都内の短大を卒業した明美さんは、新卒採用では事務職を希望していた。ところが当時は就職氷河期で事務職が非正規雇用に置き換わり始めた頃で、正社員の枠は少なく、エントリーしても全滅。それでもいったんは消費者金融会社に営業事務として正社員入社した。債務者に取り立て(債権回収)の連絡を入れる業務もあり、それがつらくなって入社2年目で退職した。

「無職でいるわけにはいかない」と、学生時代に経験のあったアパレル販売のアルバイトでしのいだ。一人暮らしの生活費を稼ぐため、シフトがない時は日雇い派遣を入れるうち、本格的な再就職活動ができなくなるジレンマに陥った。そして2008年のリーマンショック。「なんのスキルもない私に正社員は一層とハードルが高くなりました」と明美さんは振り返る。

アパレル店や飲食店で仕事を続けたが、そもそも正社員は店長など限られた人数しかいない。今はコロナでシフトが減り、いよいよ違う業界に目を向けなければ完全に職を失いそうな状況だ。明美さんは「事務職に転職しようにも経験がありません。今さら氷河期世代を支援するといっても、これから資格をとろうにも日々の生活で精いっぱい」と頭を悩ます。

できるか? 3年間に30万人を正社員化

国は就職氷河期の定義を「おおむね1993年卒から2004年卒。大卒でおおおむね37~48歳、高卒で同33~44歳」(2019年4月時点)とし、その中心層を「35~44歳の371万人」としている。同世代は、1991年のバブル崩壊、1997年の金融不安、2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどの影響を受けてきたうえ、今、コロナショックのさなかにいる。

昨年6月に発表された支援策では、3年間で就職氷河期世代30万人を正社員に移行する目標を立てている。主な支援内容は、ハローワークに専門窓口を設置し、担当者によるキャリアコンサルティングや職業訓練などチームを組んで支援。専門窓口は全国69カ所から82カ所へ、就労・生活支援アドバイザーと就職支援コーディネーターはそれぞれ69人から82人へ、職業相談員は118人から144人体制に強化する。民間ノウハウも活用して正社員への就職につなげるが、どれも過去の施策の寄せ集めとなっている。

目玉施策として厚生労働省がIT、建設、運輸、農業などの業界団体に委託し、「短期資格等習得コース」の講座を開講し、業界で必要な訓練と職場体験を組み合わせて正社員就職を支援する「出口一体型」を行う。建設や農業はもともと人手不足で外国人労働に頼っている業界だ。ほかにも、造船・舶用工業、内航船員、林業、自動車整備業など深刻な人手不足業界に就職氷河期世代を呼び込もうとしている。理想どおりにいけばいいが、中年層になってからのこれらの業界への転身が進むかは疑問が残る。