腹筋が「社長」ならお尻は身体の「副社長」

ところが身体の使い方となると、多くの人が逆をやっています。腕や足首など末端だけを酷使して、中心の大きな筋肉を使えていないのです。

これではまるで、経験の少ない若手社員に膨大な仕事を押しつけたり、週3回出勤のアルバイトに重要案件を任せたりしているようなもの。オーバーワークの若手社員が急に倒れたりするように、身体もその部位のケガや機能不全を招きます。若手社員やアルバイト任せにしていては周りが手を焼くように、身体でも、中心の不十分な動きをカバーしていた末端の部位にもトラブルが生じたりします。

末端ではなく、本来使うべき中心の大きな部位には、体幹のほかに腿の前面(大腿四頭筋)やふくらはぎ(下腿三頭筋)、腿の裏(ハムストリングス)などの筋肉があります。なかでも今回、集中的に鍛えて欲しいのはお尻の筋肉です。

お尻の筋肉は、股関節と相関関係にあって、歩く、走る、止まる、骨盤を使って腰をひねりながら脚を蹴り出すなど、大きな筋肉の中でも複雑で重要な役割を担います。企業でいえば、お尻は副社長にあたるのです。社長である腹筋とトップ争いをするくらい、実は大事な筋肉です。

地面を歩く力の起点となっているのがお尻の筋肉です。そして社長が腹筋で、肩甲骨は専務取締役。企業では経営陣のブレが会社全体に影響するように、人間の身体でも、土台となる筋肉が使われていない状態では、ほかの部分を鍛えようとしても、ケガをしたり肩こりや腰痛、膝痛などのトラブルが出やすくなります。

でも、社長であるお腹とともに副社長のお尻もしっかり鍛えておけば、腕や脚など末端が肩代わりしていた負担がなくなるので、全身バランスよく鍛えやすくなります。

アスリートすらお尻の使い方は忘れがち

実は、メジャーリーガーをはじめとするトップアスリートのトレーニングに携わるなかで、私が彼らの身体で特にチェックするのもお尻です。ここの筋肉が正しく使えているかどうかが、パフォーマンスに大きく影響するからです。

心身のコンディションがよく好成績を維持しているアスリートは、お尻から腿の付け根の筋肉が発達して張りがあり、ある程度の大きさがありますが、末端の足先にかけてはスッと細く締まっています。

ところが、副社長のポジションにありながら、お尻は身体の後ろにあるため意識しづらく、ますます使わなくなっています。身体の深部で腿やお尻に覆われている股関節も、膝や肘、肩などと違って意識しづらい関節です。

アスリートでさえ、シーズン中、私のトレーニングを受けずにいると、

「お尻ってどうやって力を入れるんだっけ?」

と正しい使い方を忘れてしまうこともあるほどです。