最重度知的障害・自閉症の息子の子育て

息子が3歳で通園施設に通い出すと、清水さんは、「大好きな100円ショップでゆっくり買い物がしたい」という夢を叶えようと実行に移した。

息子は数秒もじっとしていてくれないため、商品をゆっくり見られないだけでなく、レジでお会計するにも、大暴れする息子を取り押さえながら財布を出して、やっと購入できるという感じだったのだ。

ワクワクしながら店に入ると、清水さんは涙が溢れてきた。

「息子が生まれてから、1人でこんなにゆっくり買い物ができる日が来るとは、想像する余裕さえありませんでした。通園施設のありがたさを噛み締めつつも、息子が障害児という現実は重く、涙が止まらなくなりながらも、他のお客さんに気が付かれないように、存分に買物を楽しみました」

100円硬貨
写真=iStock.com/itasun
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息子は小学校に入学する年に、養護学校に入った。

清水さんは、息子が居ない間に家事や買物を済ませる。息子は目を離すと何をし始めるか分からず、言葉で注意しても通じないため、危ないものから遠ざけ、安全な環境を作ったうえで、気の済むまでやらせるしかない。些細なことで機嫌が悪くなると、物を投げたり壊したり、清水さんに掴みかかってきたりすることもあった。

息子が中学生になった夏休み。ずっと家の中にいると息子が機嫌を悪くなるため、買物にでも行こうかと車に乗ったとき、ルームミラーに写った自分の顔に一瞬目が止まる。口が異様に曲がっていたのだ。「あれ? なんでだろ。嫌だな、変な癖がついちゃったかな」。そのときは特に気にもとめず、そのまま出かけた。

しかし夜になると、だんだん不安になってくる。顔の右側だけ下がってきて、右目は瞬きができない。口の右端が半開きのまま閉じないため、飲み物を飲んでもこぼしてしまう。

深夜に帰宅した夫に「絶対おかしいよ。病院に行きなよ」と心配され、「脳が原因だったらどうしよう?」と動揺する。

翌朝、行きつけの内科に電話したところ、「ああ、それは耳鼻科なので、耳鼻科で相談してみてください」と言われ、近所の耳鼻科へ行くと、「入院ですね」と言って大学病院への紹介状を書かれた。

「耳の中の神経がストレスで壊れてしまったらしく、表情が動かせなくなっていたようです。治療は、強いステロイドを大量に点滴で投与し、監視が必要になるため、入院しないといけませんでした」

入院中は、車で1時間半ほどのところで一人暮らしをしている義母が来て、息子や夫の世話をしてくれた。

「息子は中学生くらいまでは、常にイライラしている感じでした。気に入らないことがあるとパニック状態になり、地団駄を踏んで、窓ガラスをバンバン叩いて怒っていました。一番ひどかったのは、15歳の時です。虫歯の治療の後、麻酔が切れて痛みが出てきたせいでパニックになり、テーブルやテレビなど、リビング・ダイニングにあるものをほとんどなぎ倒して暴れました。私は身の危険を感じて外に避難し、そろそろ落ち着いたかなと思って玄関を開けると、息子が血まみれで立っていました」

息子は、割ったガラスのコップで手を切り、その手であちこち触ったため、家の中はまるで殺人事件現場のよう。冷蔵庫の引き出しの手をかけるくぼみには、血が数ミリ溜まっていた。

清水さんは真っ青になり、すぐさま夫に電話する。仕事中だったが、電話に出た夫は救急車を呼ぶよう言った。

救急車が到着すると、清水さんは事情を説明。救急隊員は血だらけの息子を見て、「最近子どもの虐待が多いため、決まりなので、念のため家の中を見せてもらいますね」と言って家の中を確認。血のついたコップを発見し、「このコップですね」と言い、テキパキと応急処置をした。

病院に到着すると、息子は暴れて傷口を縫えないため、包帯を巻かれて終了。仕事帰りの夫と落ち合い、3人でタクシーに乗って帰ると、大惨事の後片付けをした。