台湾は2019年、店内飲食でのプラスチック製ストローを法律で禁止した。法律が生まれるきっかけとなったのは、参政権を持たない女子高生による書き込みだった。閣僚のオードリー・タン氏は「台湾には『2カ月以内に5000人が賛同した場合には、必ず政府が政策に反映する』というルールがある。ストロー廃止はこのルールの成果だ」という――。

※本稿は、オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

AP通信のインタビューに答える台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏=2020年12月10日
写真=AP/アフロ
AP通信のインタビューに答える台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏=2020年12月10日

「政務委員」とは何をする仕事か

私の政治家としての現在の肩書は、行政院におけるデジタル担当政務委員です。

正確にいえば、政務委員の一人であると言ったほうがいいでしょう。行政院には32の部会があり、それぞれトップがいます。しかし、1つの部会では解決できない問題もたくさんあります。そういうときには部会間の異なる価値を調整する人間が必要になります。それを行うのが、政務委員です。つまり、複数の部会を横断的に見て、その間に橋をかけ、「共通の価値観を見つけ出す」というのが、政務委員の仕事なのです。

そんな政務委員の1人として、私はデジタルを用いて問題のシェアあるいは橋渡しをする仕事を担当しています。ですから、「デジタル省」や「デジタル庁」といった組織が存在して、私がそのトップに就いたわけではありません。

市民が政府にアイデアを提案できる「Join」

私は2014年12月、当時の馬英九政権の政務委員だった蔡玉玲氏と一緒にオンラインで法案を討論することができる「vTaiwan」というプラットフォームを構築しました。その後、行政院のコンサルタントに就任して、デジタル担当政務委員に就任した2016年には「Join」という参加型プラットフォームを開設しました。この「Join」は、現在ユーザー数が1000万人を超えています。

人々は生活の中にある問題を解決するための新しいアイデアをこのプラットフォームに提案することができ、その意見を聞いた人は、即座に自分の意見を伝えることができます。

「Join」上でこれまでに議論された政府プロジェクトは2000件以上あり、主な分野は医療サービス、公衆衛生設備、公営住宅建設に関するものでした。

このようにして、様々な意見を持ち寄り、議論を重ねることによって、困難な問題でも解決の糸口が見つかる可能性があります。これがデジタルとアナログの最大の違いでしょう。

とくに政治においては、デジタル技術がなければ、人々に告知することはできたとしても、問題解決に直接的に参加するのは容易ではありません。デジタル民主主義の根幹は、「政府と国民が双方的に議論できるようにしよう」ということです。私は「国民の意見が伝わりにくい」とされる間接民主主義の弱点を、インターネットなどの力により、誰もが政治参加をしやすい環境に変えていこうとしているのです。