台湾では2019年、アジアで初めて同性婚が法的に認められた。なぜ多くの国民はこの決定を受け入れたのか。トランスジェンダーであることを公表している閣僚のオードリー・タン氏は「おせっかいでうるさい価値観があるが、多数派にも耳を傾ける土壌がある」という――。

※本稿は、オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏(アンバー・ワン氏によるインタビューにて=2020年6月16日
写真=AFP/時事通信フォト
台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏(アンバー・ワン氏によるインタビューにて=2020年6月16日

政府の価値観を確立することの大切さ

私の仕事は非常に明確で、様々な異なる立場の人たちに対して、共通の価値を見つけるお手伝いをすることです。いったん共通の価値が見つかれば、異なるやり方の中から、みなさんが受け入れられるような新しいイノベーションが生まれます。それは共通の価値と実践の価値のイノベーションです。

こうした仕事は、私が政務委員になる前から行ってきたことです。もちろん現在は政務委員として中央政府の支援を受けつつ、部会間の価値観を調整する仕事を進めています。部会間で価値観が異なる場合、あるいは価値の調整が難しい場合、民間の力を入れてイノベーションを進めることもあります。とくにイノベーションの分野では、民間企業がすでに多くの革新的なアイデアを出しているにもかかわらず、政府内ではまだ気づいていない部分もたくさんあるからです。

そのためには、まず政府の価値観を確立し、その後に同じ価値観を持った民間企業や個人を引き入れる。そうすれば「ゼロから何かを作り出す」ことをする必要はありません。これが私の現在における仕事と政治の関係です。

男性でも女性でもない「性別無し」と書く理由

私の成長期において、男性ホルモンの濃度は八十歳の男性と同じレベルでした。そのため、私の男性としての思春期は未発達な状態でした。二十歳の頃、男性ホルモンの濃度を検査すると、だいたい男女の中間ぐらいであることがわかりました。このとき、自分はトランスジェンダーであることを自覚しました。

私は十代で男性の思春期、二十代で女性の思春期を経験しましたが、今述べたように一回目の思春期のときは、完全に男性になるということはなく、喉仏もありませんでした。また、男性としての感情や思考を得ることもありませんでした。二十代で迎えた二度目の思春期には、完全ではないけれどもバストが発達しました。

結局のところ、私は男女それぞれの思春期を二~三年ずつ経験しているのですが、一般的な男性や女性ほど、完全に男女が分離しているわけではありません。そのため、行政院の政務委員に就任する際、性別を記入する欄には「無」と書きました。