年配の世代にとって、結婚の価値とは個人と個人の関係ではなく、家と家の関係によって生まれるものでした。そこに同性婚の問題が入ってくると、さらに意見の対立は大きなものになります。当時、その対立は簡単には埋まらないと思われていました。

しかし、その後、私たちは知恵を出し合って、問題の解決を実現しました。たとえば、同性婚を望むカップルがいた場合、婚姻の平等を保障するために個人同士の結婚は認めることにする一方、家族同士に姻戚関係は生じないことにする方法が生み出されました。これであれば、社会にとっても受け入れやすいのではないかと考えたのです。

「各世代の価値観を犠牲にしない」という方法

その結果、同性婚が認められて一年が経過しましたが、異なる世代の間でも、この考えがだんだんと受け入れられるようになっています。二〇一八年の住民投票のときには、賛成派と反対派が一触即発の状況でしたが、現在の世論調査によれば、同性婚の支持者が当時より一〇%増えているという結果が出ています。この方式が受け入れられたのは、少なくとも各世代の人間が持っている価値観のどれも犠牲にしなかったからでしょう。結局、誰もがそんな大した問題ではないと気づいたのです。

オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)撮影=熊谷俊之

このように婚姻の問題に関して最も難度が高いと思われた同性カップルの結婚でも、端緒をつけてしまえば、それほど害のあるものではないと多くの人々が気づくのです。この問題が先に解決してしまえば、他の婚姻に関する問題も自然に解決に向かうと思います。もちろん、家族同士の姻戚関係発生の部分、国際結婚、子供の養育に関すること、人工生殖など、まだまだ障壁は多く残っていますが、これらは一般的な問題と同じように、あとからゆっくり片づけていけばいいのです。

私は、「こうした問題は社会の自然な一部分に過ぎないのだ」ということを広く伝えていくことが大事だと思っています。その意味では、このような「意見対立」という地震がたまに起こるのも、決して悪いことではないかもしれません。地震が起こる度に、玉山(台湾最高峰の山、日本統治時代は「新高山」と呼ばれた)は、高さを増していくのです。

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