台湾では全国民がマスクを購入できるよう、近隣店舗の在庫が分かる「マスクマップ」を政府が提供し、話題となった。開発者の閣僚、オードリー・タン氏は「キャッシュレス化の前に、まず現金しか使えない人のためにサービスを考えたことが、マスク対策の成功につながった」という——。

※本稿は、オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏(アンバー・ワン氏によるインタビューにて=2020年6月11日
写真=AFP/時事通信フォト
台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏(アンバー・ワン氏によるインタビューにて=2020年6月11日

「マスク3枚まで」と制限をかけたら品切れが続出

新型コロナウイルス対策に関して、政府が対処しなければならない大きな問題の一つがマスクの供給でした。SARSのときの反省を踏まえて、医療関係者には独自の流通経路が確保されていましたので問題は起こりませんでしたが、一般の人々に対して「いかにして早くマスクを届けるか」が大きな課題になりました。

当初、政府は「コンビニエンスストアやドラッグストアで誰もがマスクを3枚まで購入できる」という政策を進めました。しかし、一人の人が複数の店舗でマスクを購入するという問題が発生しました。あるコンビニでマスクを購入した人が、隣のコンビニに行ってまたマスクを購入したとしても、店側はチェックのしようがありません。実際、この方法を始めてすぐにマスクが品切れになり、パニックが起こりそうになりました。

台湾でコンビニを管轄している政府機関は「経済部」(日本でいえば経済産業省)であり、マスクの製造も同様に経済部の管轄です。しかし、経済部はいくつかの部局に分かれていて、コンビニについては「商業局」や「中小企業部」「国際貿易局」などが関係し、マスク生産については「工業局」が関係するなど、それぞれ職掌が異なりました。そのため、まず、経済部内で各部門間の調整をする必要があったのです。

8つの関係部署をつなげなければ解決しない

次に、どのようにマスクを各地に配送するかについてですが、これは経済部だけで対処できる問題ではありません。経済部はビジネスや取引のために存在しているのではなく、各業界や業種それぞれの立場を守るために仕事をしているわけですから。

また、感染症は「衛生福利部」(日本でいえば厚生労働省)の所管ですが、「マスクを疾病対策にいかに利用するか」という政策を担当するのは、その下部組織の「疾病管制署」です。さらに、薬局は同じ衛生福利部の下部にある「食品薬物管理署」、全民健康保険カード(健康保険証)は「健康保険署」の管轄です。

このように、マスク対策に「経済部」と「衛生福利部」という2つの部と少なくとも6つの局が関わっているのです。さらに、毎日マスクの配送を請け負う郵便局は「交通部」(日本でいえば国土交通省)の管轄で、当然ここも関わってきます。

このように、一つの部会では解決できない問題が生じた場合、部会間で異なる価値を調整する必要があります。こうした部会間を横断する問題をデジタル技術を使ってクリアにしていくことが、デジタル担当政務委員としての私の仕事になりました。ちなみに、現在、行政院には私を含め、9人の政治委員がいます。