ホットラインには市民から想定外の声が

これらの関係部局が集まって何度もマスク対策会議が開かれました。毎回各部門から上がってくる問題について議論しましたが、そのテーマは政府内から上がってくる問題だけでは済みませんでした。

たとえば、1922(政府が新型コロナウイルス対策の一環として設けたホットラインの番号)に、市民から「新しいアイデアを政府の指揮センターに伝えてほしい」という電話が入ってきた際に、そのアイデアについて議論をしたこともあります。また、「小学生の男の子がピンクのマスクを学校にして行ったら、友だちに笑われた」という母親の声が寄せられたときには、これにどう対処するかを話し合いました。

他にも、「マスクは繰り返し使ってよいのか」とか、「電熱釜で加熱すれば殺菌できる」という政府の公告に対して、「本当に水を入れずに加熱してよいのか」といった声が寄せられました。これら民間から上がってきた質問は、政府が想定していた内容をはるかに超えるものでした。

コールセンターの女性
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事態が進むにつれて、「マスクを普遍的に行き渡らせ、人々に使用してもらうことは、新型コロナウイルス対策で非常に重要な価値を持つ」という認識が政府内で共有され、私たちは民間の声も重視し、情報を寄せてくれた人たちともコミュニケーションをとるようになりました。

「マスクの実名販売」に起きた問題

対策会議の結果、台湾の国民皆保険制度を活用して、全民健康保険カードを使った実名販売を始めることにしました。ただし、あるコンビニで誰かがマスクを購入したら、その情報がリアルタイムで別の店舗にも共有される必要があります。「この人はもう購入しているので、これ以上は購入できません」という情報が伝わらなければ、また複数店舗で購入する人が出てきます。

そこで実名販売を実現するために、全民健康保険カードを使うだけでなく、クレジットカードや利用者登録式の「悠遊カード」(日本のSuicaのような非接触型ICカード)を使ったキャッシュレス決済を組み込むことにしました。この方法であれば、誰がマスクを購入したかを確実に把握することができます。

ところが、いざスタートしてみると、この方法でマスクを購入した人は全体の4割しかいないことがわかりました。つまり、現金や無記名式の「悠遊カード」を使い慣れていた高齢者には不便な方法だったのです。これは単にデジタルディバイド(情報格差)の問題ではありません。防疫政策のほころびです。マスクを購入できた人と購入できなかった人の割合が半々では、防疫の意味をなしません。