私が驚いた「少数派の問題を解決したケース」

この案件は成立まで1カ月半という比較的長い時間を要しましたが、利害関係が著しいものや組織の色が濃い案件の場合には、一瞬で5000人を超えることもあります。

オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)撮影=熊谷俊之

この案件の正式名称は「G6PD異常症患者の溶血を誘発する発がん性物質配合の合成防虫剤利用禁止についての提言」というものです。みなさんは防虫剤がどんなものかはご存知でしょうが、G6PD異常症についてはほとんどの人がご存知ではないと思います。こういうケースこそ、PDISが効果的に機能するのです。

G6PD異常症患者は人口の面からいえば少数の問題であって、一般的には、私たちの大部分はG6PD異常症患者ではなく、さらに友達にこの患者がいるということもほとんどないはずです。しかし、G6PD異常症患者は、空気中の揮発性合成防虫剤に接触しただけで血液中の赤血球に影響を及ぼし、命に関わる状態に陥ります。合成防虫剤は揮発性が非常に高く、公共図書館や公衆トイレなどでも使われています。普通の人にとってはほんのわずかに防虫剤のにおいがする程度で気にならないかもしれませんが、患者にとっては、即座に発症したり、死に至るほどの危険性があるのです。

5000人を超える賛同者が集まった

しかし、誰かがこの防虫剤を禁止する提案を国民投票にかけようと言っても、実際に国民投票が実現する可能性はほとんどないと言っていいでしょう。G6PD異常症患者やその友人、親族の票数だけでは、この問題について議論する必要があると感じる委員はいないかもしれません。もしいたとしても、この件に関心を持つ委員が過半数を占めることはおそらくないでしょう。

ところが、PDISのプラットフォームにこの問題を提起したことで、事の重大性が多くの人たちにシェアされ、なんと5000人を超える賛同者を集めることができたのです。これによって、政府も問題解決に向けて動き出すことになりました。

私たちは各案件について賛同の署名をしてくれた5000人とネット上でミーティングを行います。ただその前に、なぜ発起人がこの件について話し合いたいかについてヒアリングします。今の防虫剤の案件では、発起人は「自分には利用できる社会資源がなく、委員の知り合いもいないので、自分の話をネットに書いて他の人に知ってもらうほうが他の方法よりも実現性が高いと思った」と言っていましたが、実際にそのとおりになりました。

問題解決の別の方法として、行政院長にメールや請願書を書くことも可能です。そのためのコストもあまり変わりません。ただ、この方法では、より広く社会に知らせることはできないでしょう。行政院長のメールボックスを管理している人にしか、問題の所在を知ってもらうことができないのです。

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