伝えるに値する内容を作り出すことが重要

「文章の書き方」についての多くの本が強調するのは、「どのようにして人々の注意をひくか?」です。しかし、これだけに気をとられて、中身のない文章を書いても、しようがありません。いま、このようなことに人々の関心が過度に向きつつあるように思います。それは、見かけばかりを気にしている人にも喩えられます。世間では「見た目が9割」といわれますが、本当に重要なのは、身体を丈夫にし、生きがいのある生活をすることです。そうすれば、見かけはおのずと魅力的になるでしょう。

文章の場合も同じです。伝えるに値するような内容をどのように作り出すか。それが重要なのです。

書き手が理解していれば文章はわかりやすくなる

書き手の考えが読み手に伝わるためには、まず書き手の頭の中が整理されていることが必要です。書き手がよく理解していれば、文章は読みやすくなり、分かりやすくなります。

野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)
野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)

逆に、書いている人がその内容をよく理解していないのであれば、あるいは、主張したいことがよく整理されておらず混沌としているのであれば、読み手が理解できないのは当然のことです。適切に構成されていない状態の考えをそのまま文章に書いても、読み手が理解できるはずがありません。

また、対象と考えている読者が専門家なのか、あるいは一般の人なのかを意識している必要があります。これによって、テクニカルターム(専門用語)や基礎概念などをどの程度説明するかに差が生じます。

一般的な読者を対象とする場合には、テクニカルタームについて説明することが必要です。難解なテクニカルタームをそのまま用いるのは、書き手が内容をよく理解していない証拠です。

また、「よく知られているように」とか、「といわれている」という表現が多い論述も、その内容について書き手がよく理解していないことを示すものです。

論理構造が正しくなくてはなりません。とりわけ重要なのは、必要条件と十分条件を区別することです。同じことですが、「逆命題は必ずしも真ではない」と意識することです。