すべての車窓が「ディスプレー」に変わっていく

通信環境は5Gになる。実効速度で下り1Gbpsとなり、100インチのディスプレー4枚分の4K映像を楽々ストリーミングできるようになる。たとえばAGCはガラス埋め込み型アンテナを開発している。こうした技術を用いれば、自動車はそれ自体が基地局として5G環境に置かれると考えられる(※1)

HMIは五感を刺激する機能を指す。今後は特に視覚面の進化が著しく、すべての車窓がディスプレーになる。有望な手段のひとつが、ガラスの中間膜に液晶を挟み込む方法だ。JDIの液晶技術による現状の透過率は87%で、ガラスだけの一般的な透過率92%と遜色ない水準にある。タッチパネル機能も搭載でき、画素数も1440(H)×540(V)とハイビジョンテレビに近い。ガラス自体の性能を変えないため、強度や飛散防止性などの面でも自動車への搭載に障害は少ない。今後の課題は、現状20インチ程度の表示面積の拡大や消費電力の抑制だが、2030年代には解決されるだろう(※2)

※1 AGC株式会社ニュースリリース「ドコモとAGC、『窓を基地局化するガラスアンテナ』によるサービスエリア提供を開始」(2019年10月)
※2 株式会社ジャパンディスプレイニュースリリース「12.3インチ 透明液晶ディスプレイ開発」(2019年11月)、日経BP社「2040年のクルマ徹底予測」『日経Automotive(2018年02号)」

ジャパンディスプレイが開発した12.3インチ透明液晶ディスプレイ。
写真=同社プレスリリースより
ジャパンディスプレイが開発した12.3インチ透明液晶ディスプレイ。

このほかには、自発光中間膜、有機EL、車窓へのフィルム貼付といった技術もある。いずれにしろ、将来的には天井を含めた全天空型の映像・音響環境が実現すると期待される。

体温、呼吸、心拍、心電などの計測が可能に

バイタルセンシングでは、乗車している人の喜怒哀楽やストレス状態の分析が可能になる。すでに「表情分析」が現在進行形で進んでいる。これは運転支援技術において運転者が眠っていないか確認するための機能だ。

そのうえで、今後は体温、呼吸、心拍、心電などのバイタルサインの計測が可能になる。たとえばパナソニックは79GHz帯ミリ波レーダーによる非接触計測とその解析技術の開発を進めている(※3)。テキサスインスツルメンツは、車内環境での複数人同時計測技術を開発している(※4)。これらの技術による喜怒哀楽分析は、AIスピーカーによる言語コミュニケーションと組み合わせることで相当な水準になると考えられる。

※3 パナソニック株式会社プレスリリース「非接触ミリ波バイタルセンサーの小型・高感度化技術を開発」(2017年9月)
※4 テキサスインスツルメンツ公開ブログ「TIのミリ波テクノロジーを用いた車内用センシング」(2019年9月)

2020年代の技術進化を背景に、2030年には車内でのデジタルコンテンツがリッチで多様になる。全天空型の映像・音響環境にて、バイタルセンシングによる双方向コミュニケーションが実現する。ゲームや映画などの作品やキャラクターが、移動中はもちろん、その前後の時間も含めて利用者を楽しませる状況が期待される。冒頭に述べた宇宙空間のシューティングゲームはその一例だ。