この状況はある意味で日本にとってチャンスでもある。アメリカは、中国に代わって独自の5Gを開発するなど高度なイノベーションのための知的連携のパートナーを探している。日本がその一端を担うことは十分に可能性がある。

とは言え、もともと日本は他国との知的連携が十分でなく、「オールジャパン」を重視する風潮がある。各国の特許で海外との共同研究が占める割合で見ると、日本は主要国の中で極端に低い。グローバルな知的連携の欠如から、新しい情報や知識を海外から取り入れられていないことが、近年顕著な日本の技術力の低下の1つの原因でもある。

先日「いったん立ち止まる」ことが発表された三菱重工業のスペースジェット(旧MRJ)開発のケースは示唆的だ。

もともと2013年に初号機納入の予定が遅れに遅れ、もともとは日本人中心で開発を行っていたものが、2016年に航空機開発の経験の多い外国人エンジニアを最高開発責任者に据えて300人以上の外国人エンジニアも開発に携わる体制に変わった。しかし、外国人と日本人エンジニアとの軋轢のために、この体制もうまくいかなかったことが事実上の開発凍結につながったという。

日米豪印を中心とした知的ネットワークを強化せよ

本来、組織内の仲間と強くつながりつつ外国人などの「よそ者」ともつながることで、企業や個人のパフォーマンスは大きく向上するはずだ。よそ者から新しい知識を吸収し、それを仲間内で共有することでイノベーションが起きるからだ。このことについては多くのエビデンスがあるが、紙幅の関係上ここで紹介することはできない。興味のある方は拙著『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか―生存戦略としてのネットワーク経済学入門』をお読みいただきたい。

戸堂康之『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』(プレジデント社)
戸堂康之『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』(プレジデント社)

オールジャパンにこだわらず多様なネットワークを構築し、様々なよそ者から柔軟に知識を取り入れて活用できるようにすることが、日本の企業や大学には求められている。むろん、その相手はアメリカだけではない。ヨーロッパ諸国やオーストラリア、シンガポール、台湾などグローバルな技術先進国と多様につながることが必要なのだ。

そのためには、政府の支援も必要だ。特にこの状況では、日米豪印を中心とした国際的な知的ネットワークのプラットフォームを整備することが有効であろう。コロナ感染拡大後には、日豪印でサプライチェーンの強靭化に向けた新たなイニシアチブの立ち上げが提唱されている。

グローバル・サプライチェーンの途絶のリスクに備えることは必要だ。しかし、それ以上にグローバルな知的ネットワークの中心の1つとなってイノベーションを活性化させることは、日本にとって死活問題である。例えば、インド太平洋地域に貿易やインフラネットワークだけではなく、研究開発や技術移転での連携による知的ネットワークを構築することをFOIPのもう1つの柱に据えるなど、本腰を入れた政策を期待したい。

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