四半期売上高は過去最高、日本電産の成長を支える2つの源泉

10月26日、精密モーター大手の日本電産が2021年3月期の第2四半期決算を発表した。決算の内容は好調だ。上期の営業利益は増益を達成し、四半期の売上高は過去最高だった。さらに、日本電産は通期の業績見通しも上方修正した。

記者会見する日本電産次期社長の関潤・同社特別顧問(左)。右は永守重信会長
写真=時事通信フォト
記者会見する日本電産次期社長の関潤・同社特別顧問(左)。右は永守重信会長=2020年2月4日、京都市内

決算資料を見ると、日本電産の成長を支える主な要素が確認できる。1つ目は、経営者の経営方針が一貫していることだ。日本電産はモーターの可能性を追求し続けている。

もう1つは人の教育である。日本電産では、社員が永守重信会長の理念を共有し、常に効率的に高い成長を目指す経営風土が醸成されている。永守氏が日産自動車の元副COOだった関潤氏を社長に招いたことも組織力向上につながっている。

今後、日本電産を取り巻く競争環境はさらに激化するだろう。特に、中国勢の追い上げは熾烈しれつだ。変化に対応しつつ日本電産が長期存続を目指すためには、経営のスピードをさらに引き上げる必要がある。そのために、永守氏と関氏がどのように組織の地力を引き上げ、全社一丸となって激しい競争の波を乗り越えていくかが見ものだ。

“合議制”から“トップダウン体制”に戻した理由

日本電産の経営を考える上で最も重要なことは、経営トップがモーターの可能性を理解していることだ。足元ではテレワークによるパソコンの需要拡大など、中長期的には自動車の電動化やロボットの活用範囲の拡大などがモーター需要の伸びを支える。そうした長期の展開を描き、迅速に重要な意思決定を下す永守氏の才覚が、日本電産の業績拡大を支えている。

2018年から2019年にかけての日本電産の経営体制の変化は、永守氏の意思決定の重要性を確認する良い材料だ。2018年、米中の通商摩擦が激化する中で日本電産は永守氏によるトップダウン体制から“合議制”への移行を目指した。

その後、米中の摩擦は激化し中国経済の成長の限界への懸念も高まった。2019年1月、米中摩擦などの影響によって中国の需要が急減し、日本電産は業績を下方修正した。永守氏が「尋常ではない変化が起きた」と評するほど状況は深刻だった。

本来、事業環境が悪化した時は、成長分野への投資を進めるなどしてシェア拡大を狙う好機だ。しかし、当時の日本電産は合議制をとったため意思決定が遅れた。永守氏は合議制を重視した経営に危機感を強め、トップダウン体制に戻した。

その際、永守氏は日本電産のコアコンピタンスである“モノづくり”のバックグラウンドが豊富な関氏を招聘しょうへいし、成長期待の高い車載事業などを統括させた。関氏は、部品の内製化やサプライチェーンの見直しなどを進めることによって収益性の向上を実現している。

以上の取り組みが可能だったのは、経営トップの考えがぶれないからだ。経営トップが取り組むべきポイントを明確につかみ、必要な方策を具体的に描いているからこそ、日本電産は常に事業体制を強化し、収益力を高めることができている。

それは他の企業にも参考になる。経営者が自社の強みをピンポイントで把握し、長期の視点で事業戦略を策定できれば、変化への対応は行いやすい。反対に経営者の焦点が定まらないと、あれにもこれにも手が出てしまい、機敏に変化に対応することは難しい。また、合議制の場合、誰が最終責任者であるかが曖昧になりやすい。