“すぐやる、必ずやる、出来るまでやる”人を増やす

永守氏のインタビュー記事などを見ると、同氏は無駄を嫌っている。コロナショックの発生に関して、日本電産は経営体質を変革する絶好の好機ととらえ、関氏の指揮のもとで原価低減をはじめとするコスト構造の改善に取り組み業績拡大につなげた。

無駄を嫌う永守氏の考えは、日本電産の組織風土そのものだ。日本電産は徹底して事業運営の無駄をなくし、その上で革新的なモーター関連技術を生み出すことによって、高い成長を追及している。創業者である永守氏の考え(永守イズム)が全社員に浸透し、さらなる成長を実現するために、同社は社員の教育を重視している。

良い例が、社内大学である“グローバル経営大学校”だ。そこではマネジメントに不可欠な経営戦略やファイナンスなどの専門知識に加え、永守氏の経営哲学などが経営幹部候補生に教授されている。

また、日本電産は永守氏の経営理念、生き方、考え方を記した『挑戦への道』を作成して事業を展開する各国の言語に翻訳して社員教育を徹底している。その目的は、永守氏が重視する“すぐやる、必ずやる、出来るまでやる”人を増やすことだ。さらに、永守氏は京都先端科学大学の運営にも注力し、世界最高峰のモーターエンジニアの育成を目指している。

M&Aに関しても、日本電産は買収した組織が自社の経営風土に速やかに習熟し、力を発揮することにこだわっている。永守氏は自ら買収した企業の経営に参画して徹底してPMI(買収後の組織統合)を進め、支出の削減などの改善策を実行して業績を立て直す。それを見た社員は「この人についていけばうまくいく」と信じ、士気が高まる。

その結果として業績が拡大すると、日本電産はボーナスの増加などによって社員の労に報い、さらなる士気向上が目指されている。経営トップ自らがPMIを主導し、組織の収益獲得力向上を実現することは口で言うほど容易なことではない。それでも永守氏が自らPMIを行い、徹底した研修などによって組織の士気の統一と向上にこだわるのは、人材を磨くことこそが企業の成長を支えるとの信念があるからだ。

長期存続に不可欠な個人の力

今後の展開を考えた時、日本電産を取り巻く環境は大きく変化するだろう。日本電産が変化に対応し成長するためには、人材の育成を強化し、個々人の力、やる気をさらに引き出すことが重要だ。最終的に企業の成長は人にかかっている。独創的なアイデアや自らの意見を持った人材を増やし、やる気と集中力を高め、組織としての一体感を醸成することが企業の成長に不可欠だ。

ノートパソコンで仕事をする女性
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特に、EVモーターを中心に中国の企業とのシェア争いは激化するだろう。国営・国有をはじめとする中国企業は優秀な人材を確保してソフトウエア面での競争力を発揮し、技術開発に関しても急ピッチで力をつけている。共産党政権は有力企業に土地を提供し、産業補助金も支給している。優秀な人材と固定費の低さが中国企業の低価格戦略を支えている。

国際的な競争激化に備え、日本電産はセルビアに工場を建設して欧州でのEVモーター供給能力を引き上げる方針だ。シェア獲得のために追加的な設備投資や企業買収も必要だろう。

増大する組織を1つにまとめて士気を高め、より効率的に収益を獲得するためには、永守氏のさらなるリーダーシップ発揮と、自動車ビジネスに長く携わった関氏のイニシアティブ発揮が不可欠だ。その上で業績が拡大し、賞与の増加や個人への権限付与などが進めば士気は一段と高まるだろう。それは、日本電産の長期存続を支える要素になる。