秋山真之の「奇行」エピソードは、兄好古に比べても格段に多い。

日露戦争中、東郷平八郎大将率いる連合艦隊旗艦「三笠」上だけでも――。

バルチック艦隊があらわれる直前、東郷が「三笠」の司令長官室に各司令官と参謀長らを招集したときには、みなが緊張しているさなか、突然、真之はテーブルの皿に盛られたリンゴにひょいと手を出して、いきなりかじりはじめた。だが本人はリンゴを食べていることすら忘れているような顔つきだった。同席した者は「しようがないヤツだ」「こいつ、とうとうアタマにきたか」とあきれた。

真之の煎り豆ボリボリは有名だが、自分の部屋のみならず、艦橋にいようが、となりに東郷がいようが、おかまいなしでボリボリやっていた。上司たちは、まるで類人猿でも飼っているつもりで我慢していたらしい。

煎り豆ばかり食べているからか、デカい屁をひっていた。仕事中、力を入れて勢いよく屁をぶっぱなす。ぶっぱなしておいて、「あ、屁か」と言うのが常だった。

そして艦橋や甲板でなにか思いつくと、部屋にもどってベッドにごろりと横になり、天井をにらんだまま瞑想し、いつまでも考えている。真之の補佐として参謀を務めていた飯田久恒少佐は、秋山がいつ寝ているのか不思議だった。

飯田は、秋山のことを、こう思っていた。

「この人は頭がいいから名参謀だが、ふつうだったら変人だ」

バルチック艦隊が姿をあらわし、大本営へ「敵艦隊見ゆ」の電文を送るさい、飯田久恒少佐らが執筆した「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直(ただち)に出動、之を撃滅せんとす」の文章のあとに、真之は付け加えた。

「本日天気晴朗なれども浪高し」――有名な名文だが、これは、前の日に大本営の予報課長兼観測課長が5月27日の天気を予報してきた電文「天気晴朗なるも浪高かるべし」を引用し、改めたものだった。

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