「賞与や退職金を支払わなくても違法ではない」を鵜呑みできない
残る(1)ボーナスと(7)退職金については、高裁段階ではボーナスは正社員の6割、退職金は正社員の4分の1を支給することを命じたが、最高裁はこの判決を覆し、両方を支給しないのは「不合理とはいえない」とし、ボーナスや退職金を支払わなくても違法ではないと判断した。
じつは企業の人事関係者は「非正社員にボーナスや退職金を払うことになれば大変だ」と頭を抱えていたが、最高裁の判決でホッと胸をなで下ろした人も少なくない。
人事関係者以外でも正社員の中にはネット上で「私たちは正社員としての責任を負っている」との立場の違いを強調し、非正社員にボーナスを払わないのは当然といった声も散見される。最高裁の結論だけを鵜呑みにしてはいけない。
しかし、今回の判決は特定の企業・団体の事情に即した事例判決であり、あらゆる企業に当てはまるとは限らないからだ。
実際にボーナス判決ではこう述べている。
「両者(正社員と非正社員)の間の労働条件の相違が賞与に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる」
これは退職金判決も同じことを言っている。「同条」とは、今回の訴訟根拠となった正社員と非正社員の不合理な待遇差を禁止した労働契約法20条のこと。
つまり、個々の企業の賞与や退職金を支給する目的や趣旨を検証した結果、正社員だけに支給し、非正社員に支給しないのは不合理だという判決が下される可能性もあると言っているのだ。
将来的には賞与・退職金が非正社員にも支給される可能性がある
さらに注意したいのは、訴訟根拠となった労働契約法20条は、今年4月に施行されたパート有期法の8条で条文の内容が改正されていることだ。
具体的には旧20条には記載されていなかった「有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」と書かれ、賞与が明示されていること。またパート有期法14条2項では、非正社員から「正社員と比べてなぜ待遇が違うのか」と説明を求められたとき、使用者はその違いについて説明する義務を新たに課している。
もし使用者が説明義務を十分に果たせなければ、そのことが裁判の参考になり、場合によってはその格差が不合理と判断される可能性もある。
さらにパート有期法と同じ今年4月に施行された新法の指針である「同一労働同一賃金ガイドライン」には、賞与について「会社業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」と明記している。
近年のボーナスは単に給与の何カ月分という固定的な支給ではなく、会社業績・部門業績・個人業績に連動して支給されるケースが増えている。
今回の最高裁の判決はあくまで旧法に基づいた判断であり、仮に、4月に施行された新法やガイドラインに基づいた新法下で裁判が起こされると、賞与や退職金の支給はもちろん基本給の違いも不合理だと判断される可能性も否定できないのだ。