「正社員の特権」解体、正社員賃金を削って非正社員との待遇差を解消

企業側は今回の判決で諸手当などは非正社員にも支給しなければいけなくなった。さらに賞与や退職金なども非正社員に一定の支給をするとなると、正社員も安閑としていられなくなる。

若い日本人
写真=iStock.com/Bobby Coutu
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なぜなら会社にとってはその分、人件費が増えることになるからだ。しかもコロナ禍で業績が低迷し、長期化が予想されるなかで人件費を増やすことは論外という企業も多い。結果として、正社員の賃金を削って非正社員との待遇差を解消する企業も当然出てくるだろう。

そうなると従来の「正社員の特権」が解体されることになる。

では具体的にどのようなプロセスを経て解体されるのか。今後、想定される負のシナリオは以下の3つだろう。

①非正社員への諸手当の支給を回避するために、正社員の既存の手当を廃止し、基本給の中に「調整給」として入れ込み、数年かけてなくしていく。
②ボーナスは従来の給与の何カ月分支給という固定方式を廃止し、「完全業績連動方式」に転換し、利益の一定程度を、非正社員を含む全社員で分け合う。
③基本給については「職務給制度」(ジョブ型)を導入し、従来の年功的賃金制度による固定費を削減する。

従来の「正社員」の特権が剥奪される

すでに家族手当や住宅手当を廃止する企業が相次いでおり、その際に行うのが①の手法だ。今回の最高裁判決で、他の手当の廃止を含めてその動きに拍車がかかる可能性もある。

②については、儲かった利益の割合に応じて正社員と非正社員に配分するだけでよく、会社の懐は痛まない。とくにコロナ禍の業績低迷も加わり、業績連動方式に移行する企業が増えると思われる。

職務給制度(ジョブ型)は、求める役割・成果・スキルなどを具体的に定義したジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて人を採用・任用する仕組みだ。職務範囲が明確なので遠隔で仕事を行うテレワークと相性が良いことから導入する企業が増えると見込まれている。

一方、職務給制度は、給与が担っている職務に張り付き、職務が変わらなければ給与が上がることはなく、給与を上げようとすれば職務レベルを高める自助努力が必要になる。

また、昇給・昇進など年功的人事制度と違い、職務の成果によって降格し、給与減が発生する。年功的賃金制度は自動的に固定費が増加する仕組みであるが、職務の変更(降格・ポストの削減など)による降給などにより、人件費をコントロールできるメリットがある。

そして非正社員はもともとジョブ型の働き方をしていた人が多い。正社員のジョブ型導入と同時に非正社員の職務を格付けし、制度の枠内に取り込むだけですむ。

また、日本型人事制度は「人」に仕事を当てはめるが、ジョブ型は職務やポストに必要なスキルを持った人を貼り付けるのが原則。そのため欧米企業には職務とは関係のない家族手当や住宅手当などの属人給がない。ジョブ型を導入すればおのずと従来の諸手当も必要なくなるだろう。

じつはジョブ型に関しては今年7月17日に閣議決定された政府の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)にも盛り込まれている。

この中で「ジョブ型正社員の更なる普及・促進に向け、雇用ルールの明確化や支援に取り組む」と述べ、企業のジョブ型導入を政府が後押しすることを表明している。