「まっすぐ月に行きたい」に戸惑う参加国

アルテミス計画には二つの柱がある。一つはトランプ大統領が熱を入れる月面に宇宙飛行士を送り、月面基地を造り、火星を目指すこと。もう一つは月の周りを周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設だ。もともとNASAはゲートウェイ建設を長年にわたって検討してきた。月を周回する軌道に中継点を造り、そこを足がかりにして月へ、というわけだ。日本はこのゲートウェイに参加する。

ところが、トランプ大統領は、ゲートウェイに大反対した。アポロ計画の時には直接月へ行ったのに、なぜわざわざ中継点を経由する必要があるのか、まっすぐ月へ行けばいいじゃないか、という発想だ。ゲートウェイ計画を縮小し、ゲートウェイが完成する「2026年ごろ」の2年前に、地球から月へ直行して宇宙飛行士を月に立たせると決めた。月へ直行するのなら、中継点の役割は一体何なのか。日本をはじめ各国は戸惑っている。

「中国、ロシアvs米国」の構図がここでも

この問題は日本にとって重要だ。宇宙産業育成は日本政府にとっても重要課題になっている。6月に日本政府が決定した宇宙基本計画では、「宇宙産業の規模を2030年代早期に倍増」と目標を定めた。アルテミス計画でも、日本企業の技術を使って、ゲートウェイへ物資輸送や、宇宙飛行士が滞在する居住棟の環境制御などをすることになっている。

ゲートウェイは日本の宇宙産業振興策と直結しているのだ。米国から突然はしごを外されるような事態になれば、影響は大きい。有人月探査のような大きな計画は日本一国だけではできない。米国などとの国際協力が欠かせない。これから宇宙開発を進めていくためにも、日本は米国の動向を注視し、何かあれば主張や交渉をしていく必要がある。

ゲートウェイに対する米国の振る舞いには、ロシアからも批判が出ている。10月にロシアの宇宙機関のトップが「米国中心過ぎる。(ゲートウェイに)大規模に参加することは控える」と指摘したと報じられた。以前からロシアはトランプ大統領の月探査政策に批判的な目を向けている。ロシアは中国と月面探査で協力することを合意しており、「中国、ロシア」対「米国」という構図が、月探査でも展開されるかもしれない。

こうしたこともあってか、米国も最近では、ゲートウェイにいったん立ち寄った上で月へ向かう案も検討している。日本など他国をおもんぱかっているのか、技術的な問題か、はたまた財政的な問題かは、はかりかねるが、緒に就いたばかりのアルテミス計画は、まだまだ波乱要因を含んでいることを示している。