もう一つの理由は、月探査やその先の火星探査が米国の産業に大きな経済波及効果をもたらすことだ。まさにトランプ大統領の岩盤支持層の製造業に復活の機会を与える。2000年代に入ってからIT企業発のベンチャーなども続々と宇宙開発への新規参入を続けており、こうした層にも歓迎される。米国は航空宇宙産業で世界トップであり続けることへのこだわりが強い。製造業だけでなく、科学技術力のシンボルとしての意味合いもあるからだ。

月を開拓すれば多くの仕事が生まれる

NASAは大企業、中小企業、ベンチャー企業を問わず、月や火星探査に必要な技術開発を企業に発注している。月はいわば新しい土地。それを切り開き、人間が滞在して活動できるようにするとなると、たくさんの仕事が生まれる。

1964年の東京五輪に向けてどんどん工事が行われ、街が発展していったことを振り返れば、月に基地を造るために、どれだけ膨大な需要が生まれるかが想像できる。それはまさに製造業をはじめとする産業界のチャンス。トランプ政権が力を注ぐ理由がよく分かる。そこにあるのは将来の月火星探査の意義というよりも、現世の利益だ。

8月に米航空宇宙局(NASA)がまとめた「NASAと月火星探査がもたらす経済効果」に関する報告書は、約2700ページにもわたる膨大なものだ。2019年度にNASAと月火星探査計画が全米にもたらした雇用、調達などの経済効果を州別にまとめている。計画が本格化すれば、経済効果はさらに大きくなる、と強調している。

地球軌道上の宇宙ステーション
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「ドナルド・J・トランプ宇宙センター」ができるのか

また、月には水、アルミニウム、チタン、核融合発電の燃料になるヘリウム3などの資源があると言われ、中国がそうした資源を独占してしまうのではないかという懸念が取りざたされる。だが、月に行くまでの間に産業振興という大きな「資源」がある。米国はそれを着々と掘り起こそうとしている。

「米国を再び偉大に!」と言い続けてきたトランプ大統領。全米に広がるNASAの施設の中には、「ジョン・F・ケネディ宇宙センター」や「リンドン・B・ジョンソン宇宙センター」がある。派手で目立つことが好きなトランプ大統領だけに、ひょっとしたら月火星探査で名をせ、「ドナルド・J・トランプ宇宙センター」の新設を狙っているのかもしれない。そんな冗談半分の話も、国内外の宇宙関係者の間でささやかれている。