忘れられる自然災害の脅威を小説で残せれば

【三宅】そして2011年3月に東日本大震災が起きました。

【高嶋】TSUNAMI 津波』を出版したとき、津波研究の第一人者の東北大学の今村文彦先生の研究室を訪問して対談をしました。部屋に小学生の絵がいっぱい貼ってあって、「何ですか、これ」と聞いたら、「津波が来たときの避難経路のコンクールをやっています」と言うんですね。「何でそんなことをやるんですか?」と聞くと、宮城県沖地震の発生確率は、99%だと言っておられました。海溝型地震ですから、地震後、津波は起きます。

【三宅】それが本当に来てしまったわけですね。

【高嶋】東京大洪水』(集英社)も同じです。『TSUNAMI 津波』発表後に新聞小説を頼まれて書いたものです。2019年秋の台風19号で荒川が決壊寸前まで行きました。執筆のために昔、荒川周辺を歩いたのですが、たしかに怖いところです。荒川は隅田川の放水路として作られました。しかし、かつては荒川が氾濫して何千人の方が亡くなっています。総務省も「荒川が決壊したら、都内の地下鉄や地下街が水浸しになる」というシミュレーションをしています。大半の人はそのことを知らないだけで、歴史と事実をちゃんと踏まえていくと、「いまの時代ならこうなるだろう」という想像はつくんです。

【三宅】「警告したい」という意志で書かれているわけですか?

【高嶋】そうですね。調べれば調べるほど、日本は過去に自然災害が多く起こっています。地震、津波、台風、火山噴火、土砂災害などです。これは歴史です。でも、時間がたち世代が変わると、忘れられている。だから小説という形で残せればいいなとは思っています。でも、出版社からの注文も災害ものが多いのは事実です(笑)。

パンデミック後は道州制の導入が不可欠

【三宅】パンデミックを描いた『首都感染』(講談社)はいま現実に起きていますね。

【高嶋】「予言の書」などと言われていますが、決して予言じゃない。過去の歴史を調べて、現在を理解し、想像力を働かせれば書けます。ポスト・コロナと言われていますが、日本にはさらに大きな危険が待ち受けています。個人的に読んでいただきたいのは、『首都感染』よりも『首都崩壊』(幻冬舎)のほうです。これは、「次なる予言の書」です。いまの日本が抱える大きな問題の解決策が描かれているからです。

【三宅】道州制の導入とリスクの分散ですね。

【高嶋】はい。東京一極集中は新型コロナでも大きく問題視されています。将来必ず起こる東京直下型地震、南海トラフ地震でも、確実に大問題になります。

東京直下型地震では、日本の首都が壊滅状態になります。南海トラフ地震が起きると、太平洋沿岸の工業地帯が大きな被害を受けます。200兆円から300兆円の経済損失が出ると政府は試算しています。それ以上という研究もあります。この被害は世界におよび、日本発の世界恐慌を引き起こす可能性があります。それを防ぐためにいまできることは、重要拠点や産業を太平洋側に集めるのではなく、日本海側を含めて日本全国に分散させることです。それが難しいのですが。

現在の日本は、「東京一極集中」「地方創生」「少子高齢化」など、多くの問題を抱えています。これらは日本の古い形に起因するところが多々あります。明治維新以来、通信、輸送、科学技術の発達は目をみはるばかりです。でも、現在の47都道府県という日本の形は、江戸時代から変わっていません。つまり、時代遅れなのです。経済発展はある程度の経済規模が必要です。日本が持つ問題を是正する一つの方法が、道州制の導入です。新しい日本の形が必要となっているのです。

【三宅】日本の政治家の方にも読んでほしいですね。

【高嶋】どこまで本気になってもらえるかは疑問ですね。以前、衆議院議員会館で講演したとき、彼らから危機感、緊張感はまったく伝わってきませんでした。

沖縄でアメリカ海兵隊を相手に同じ話をしたことがあります。ウォー・ルームという部屋に通されて、その場にいた将校たちはみんな真剣にメモを取っていました。『首都崩壊』で描かれていることは、アメリカにとってもひとごとではなく、日本の保有するアメリカ国債の売却の問題を含んでいますから。