癒やし効果で、観客が目の前で居眠りすることも
【三宅義和(イーオン社長)】宮本さんの演奏を聴いていると、日常の心の疲れがサーと流されていくような感覚を覚えます。
【宮本笑里(ヴァイオリニスト)】ありがとうございます。私自身、音楽に勇気づけられたり、落ち込んだときに助けてもらったことがあるので、「人の心に寄り添うような音楽」を奏でることは10代の頃から一貫して目指していることです。
【三宅】クラシックの演奏会などに行くと、演奏家の緊張感が伝わってくることがたまにあるのですが、生演奏をされるときも癒やしなどを意識されているんですか?
【宮本】私の場合はマイクでお話しする時間を結構とるようにしているのですが、会場の反応を見ながらできるだけリラックスした雰囲気がつくれるように、かなり意識しています。たまにお客様が癒やされすぎて寝ていらっしゃることもありますが、「きっとお疲れなんだな。いま心が休まっているのかな」とプラスにとるようにしています。
【三宅】優しい(笑)。宮本さんの人柄が音楽にそのまま表れているんでしょう。
父の反対を押してヴァイオリンをはじめたきっかけ
【三宅】そんな宮本さんのお父様は、長年ドイツで活躍された超一流のオーボエ奏者で、東京音楽大学で教授も務められていた宮本文昭さんでいらっしゃいます。ただ、ヴァイオリンはご自身の意思ではじめられたそうですね。
【宮本】はい。小さい頃は父が家で練習をしたり、音楽仲間が家に来てアンサンブルをしたりという環境で育ちました。生の演奏に触れる機会はどの家庭より多かったと思いますが、実は小学校に上がるまで楽器に触ったことがなかったのです。
【三宅】それは意外ですね。
【宮本】1年生になって周りの友達がいろいろな習い事をするようになり、「このままでは会話についていけなくなる」と思って、お教室をいろいろ見て回ったんですね。そのとき、一番先生が優しそうだったのが、スズキ・メソードのヴァイオリン教室の先生だったんです。
【三宅】そういう理由ですか(笑)。お父さんは喜ばれたのでは?
【宮本】むしろ反対されました。音楽の世界の本当の厳しさをわかっていたからだと思います。私には直接言わず、母に「下手な音が聞こえる」「やめさせなさい」と言っていたそうなんですけれど、私も頑固なところがあって、「いまはこれがやりたいことなの」と言って続けました。