クラシック音楽を学ぶなら本場ヨーロッパで

【三宅】宮本さんは14歳のときにドイツ学生音楽コンクール・デュッセルドルフで1位を取られています。ヨーロッパでの生活体験は音楽家として影響するものですか?

【宮本】大きく影響すると思います。クラシックは楽器や曲自体がヨーロッパで生まれています。その土地や文化に根づいた独特のリズム感というのは、日本だけにいたら、なかなか自発的に生み出すことが難しいかもしれません。

【三宅】面白いご指摘ですね。外国語を学ぶためにその国に行くのはわかりますが、音楽も本場で学んだほうがいいということですね。

ヴァイオリニストの宮本笑里氏とイーオン社長の三宅義和氏
撮影=原貴彦

【宮本】そう思います。本場のオーケストラを見て、聴いて、感じとる経験を積むと、音楽的な世界観が本当に変わってきますし、普通にカフェに行ってボーッと通りを眺めているだけでも学びになると思うんです。

【三宅】というと?

【宮本】作曲家がかつて見て、何かを感じとっていた風景がそこにあるからです。それを演奏家自身も見て感じることで、演奏が本当に変わってくると思います。

「いかに心で歌えるか」

【三宅】宮本さんがテーマとされる「人に寄り添う演奏」をするためには何を学べばいいのでしょうか。

【宮本】人によって好みが分かれると思いますが、私としては「いかに心で歌えるか」だと思います。演奏家自らの人生体験、それは喜びだったり、悲しみだったりするわけですけど、それを、自分が奏でる音楽にどれだけ投影できるか。そういった演奏は聴いていればすぐにわかりますし、私自身、そのような物語を感じる演奏を聴いているほうが救われる気がします。

【三宅】日本人は技術偏重ですか?

【宮本】いまはだいぶ状況が変わったと思いますが、少なくとも私が中学生の頃に観た日本とドイツのコンサートを比べると、胸がギュッとなるような演奏家は海外のほうが多かった印象があります。

【三宅】正確さと表現力は違うという話は、外国語を使ったコミュニケーションにも通じますね。やはりヨーロッパの音楽家は表現力が高いですか?

【宮本】私がドイツで現地のコンサートをはじめて見たときに驚いたのが、演奏しているときの表情が本当に豊かであることと、オーケストラなのに体がよく動くことです。

【三宅】日本だと真面目な表情でカチッとした演奏をすることが多いですよね。

【宮本】それはそれで格好よさがありますが、「一緒に音楽を楽しむ」というモードに入りづらいのかなと思います。私としてはしっかり技術を身につけたうえで、より歌心があるというか、表現力の高い演奏のほうが好みですし、そういう音楽家を目指しています。