ヴァイオリニストの宮本笑里さんは20代の頃、1日16時間の練習を続けていた。だが、宮本さんは「まったく苦ではなく、むしろ楽しんでいました」という。なぜそこまで練習に打ち込むことができたのか。イーオンの三宅義和社長が聞いた——。(第2回/全2回)
ヴァイオリニストの宮本笑里氏
撮影=原貴彦
ヴァイオリニストの宮本笑里氏

1日16時間の練習が苦に感じなかった20代

【三宅義和(イーオン社長)】宮本さんはヴァイオリンに関して非常にストイックでいらっしゃいます。一時期は1日16時間も練習されていたそうですね。

【宮本笑里(ヴァイオリニスト)】20代の頃ですね。ヴァイオリンを習い始めたのは小学生からですが、本気になって取り組みだしたのは中学生からで、同世代と比べると本当に遅いんです。さらに周囲がグングン上達している様子を見ていたら焦りが出てきて、そこからはずっとヴァイオリン漬けの生活です。とにかく「上手になりたい」という気持ちに突き動かされていましたから、16時間練習していた時期もまったく苦ではなく、むしろ楽しんでいました。

あと、父が家で何時間も練習をしている様子を見ながら育ちましたから、「音楽家とはそういうものなんだ」という感覚もありました。

【三宅】そうですか。音楽に詳しくない人からすると、「音楽=才能」と思いがちですが、実はそうではないということを改めて感じますね。

【宮本】どんなことでもそうですが、結果は才能と努力の足し算で決まると思っています。

超スパルタの父の指導で「拍」を身につける

【三宅】中学生の時に本格にヴァイオリンを始めたということは、ドイツにいらっしゃったときですね。外国人の先生に指導を受けたのですか?

【宮本】細かいニュアンスが伝わらないとレッスンの効率が落ちると思って、ドイツ在住の日本人の方にお願いしました。ケルン放送交響楽団で第一コンサートミストレスをされていた四方恭子先生という素晴らしいヴァイオリニストの方です。

【三宅】超一流の方ですね。練習は厳しかったのですか?

【宮本】四方先生は優しさのなかに芯の強さがあるようなタイプの先生なので、厳しいと感じたことはありませんでした。本当に厳しかったのは父ですね。

【三宅】あぁ、気持ちがわかるような気がします……。

【宮本】音楽に対する情熱が本当に高い人で、私がうまくリズムをとれないでいると、メトロノームを耳の真横に持ってきて「これが聞こえないのか!」と怒鳴られたりして、何時間も泣きながらレッスンを受けていました。

【三宅】超スパルタ。

【宮本】それだけ私を成長させたかったんだろうなと思います。クラシックの世界で「拍」というものは、ある程度柔軟というか、ポップスのように正確無比に刻まなければいけない世界とはまた違うんですけれど、やはり音楽家としては自分の中で「拍」というのは正しくあるべきで、その基礎を身につけることができたことはよかったと思います。

【三宅】ちなみに、いまはどれくらい練習をされているんですか。

【宮本】育児があるので本当に減ってしまったのですが、それでも最低6時間くらいは練習するようにしています。