演奏会当日の朝食はイチローと同じく必ずカレー
【三宅】そこまでストイックに自分を高められていると、本番はあまり緊張しないのでは?
【宮本】どれだけ本番で自分の本領を発揮できるかどうかは、普段の練習量より、どれだけ本番を経験したかに比例すると思うんですね。それこそデビューしたての頃に、ものすごく準備をしたのに、緊張で頭が真っ白になって、思うような音を出せなかったことがあります。でも、コンサートの回数を積み重ねるごとに、だんだん余裕の作り方みたいなものがわかってきて、今は等身大の自分を出しやすくなってきていると思います。
【三宅】演奏会の前になにかやられるルーティンのようなものはあるんですか?
【宮本】あります。ひとつは自分の好きなヴァイオリニストの演奏を聴くことです。理想の音を聞き続けることで「耳を浄化する」イメージですね。あと、音楽とは直接関係ないのですが、イチロー選手が毎朝カレーを食べるという話を聞いて以来、私も演奏会当日の朝は必ずカレーを食べるようにしています。
【三宅】そうですか。
【宮本】科学的な根拠はわかりませんが、体が温まりますし、集中力もアップするような気がするので続けています。
大好きなものを手放すと、心のよりどころがなくなる
【三宅】少し現実的な話をすると、音大を出ても演奏家としての活躍の機会があまりなくて音楽教室などで先生をしている人も多いかと思いますが、そういう方にアドイバスをするならどんなことを伝えられますか?
【宮本】私もたまたまいろいろご縁が重なって、いまのような音楽活動をさせてもらっているだけで、「仕事がなくなったらどうしよう」ということは考えます。でもやっぱり自分がどんな状況に置かれたとしても、「本当に音楽が好き」「本当にこの楽器が好き」という気持ちがあるなら、どれだけ苦しくても音楽に関わることはやり続けると思います。自分の大好きなものを手放してしまうと、心のよりどころが必要なときにそれがないという、さらにつらい状況に置かれてしまうかもしれないので。
【三宅】「好き」を追求することですか。たしかにいまはインターネットという、誰でも使える表現の舞台がありますからね。
【宮本】そうですよね。それにいま音楽の先生ができるなら素晴らしいじゃないですか。先生の教え方次第で子供の成長は変わるので、先生自身もさらに音楽を追求して子供たちを羽ばたかせてほしいと思いますね。
【三宅】逆に、子供が嫌がっているのに、音楽教室などに連れて行く親御さんがいらっしゃいますよね。
【宮本】いますよね(笑)。自分の意思で音楽と向き合っていないと、途中でやめてしまうことが多いですよね。時間がもったいないという話もあるんですけど、そうした経験がトラウマになって音楽嫌いになる人もいて、それが一番もったいないと思います。向き不向きや得手不得手はどんなことでも絶対にあるので、いま子供が嫌がっているなら、別のことにチャレンジさせてあげたほうがいいのかな、と個人的には思います。