香港にシティスーパーあり。
作ったのは元香港西武の面々で、上質な食生活を志向する香港人の厚い信頼を得て成功を収めているらしい――。
最初にシティスーパーの存在を知ったのは、確か経済誌の小さなコラムだった。記事を読み、なんだか無性にうれしくなったのを覚えている。
海外に進出した流通業なら掃いて捨てるほどある。百貨店、コンビニ、レストラン、居酒屋、100円ショップ。だが、シティスーパーは香港人をターゲットに、香港で生まれた香港の企業だ。日本からの「進出」ではない。海外に出店した日本の百貨店の多くがそうであったように、日本人駐在員や日本人観光客を対象にはしてはいない。
日本の企業出身者が、異国の地で、そこで暮らす人々の日々の生活に密着した商売を行い、軌道に乗せている――その事実に心が躍った。
スーパーという名称がついてはいるが、シティスーパーの実態は巨大な売り場に食品や雑貨を揃えた、食と雑貨の大型専門店だ。元香港西武の館長だった石川正志(故人)が部下を引き連れ、香港で立ち上げた完全ドメスティック企業であり、現在、西武とのつながりはない。
親の良い面を取り入れ、悪い面は反面教師として参考にしながら、精神的、経済的、物理的に親から完全に独立し巣立つことを「親離れ」とするならば、本書の中でもっとも見事に「親離れ」を果たした事例は、このシティスーパーかもしれない。
2002年、創業者の石川は54歳の若さで急逝したが、亡くなる直前に、シティスーパーの未来を現社長のトーマス・ウー(烏嘉華)の手にゆだねた。ウーは、かつて石川がSEED館の館長をつとめていた時の部下にあたる。