ネットオークションサイトで「仏像」と入れて検索すると

仏像の盗難は対馬の事件だけではない。

たとえば和歌山県内では2010年と2018年の二度にわたって、計70もの寺で計230体以上の仏像が大量に盗難に遭っている。いずれも犯人は逮捕されたが、大阪の古美術商などが買い取っていた。大量の仏像の売却など通常はありえないため、古美術商も盗難とわかっていながら、買い取っていたようだ。

また、ネットオークションサイトで「仏像」と入れて検索してみると、大量の仏像がみつかる。多くは土産品、工芸品の類いであるが、中には個人所有にしては不自然なサイズ、時代の古仏、石仏、密教法具などが混じっている。同じ出品者が、複数の仏像を出品している事例も散見される。いずれも盗難品である可能性は捨てきれない。

私は地方都市における無住寺院の調査を続けているが、ある福島県の集落の寺では繰り返し盗難の被害に遭っていた。

東北の無住神社
撮影=鵜飼秀徳
東北の無住神社

鎌倉時代製造の本尊阿弥陀如来像が100万円で売られていた

A寺では過疎化に伴い、無住化した寺院を14も抱えている(兼務している)。自分の寺以外は特段の用事がない限り、年に一度、様子を見にいけばよいほうだという。

A寺が抱える被兼務寺院では過去に3回、被害に遭っている。そのひとつ、14世紀に開かれた古刹B寺では鎌倉時代製造の本尊阿弥陀如来像が、ある日こつぜんと消えていた。

B寺は30軒の檀家しかなかった。つまり、B寺は檀家の減少によって無住化した典型例であり、通常、寺はムラ人が管理するような体制であった。しかし、そんなムラほど、人々は寺と信仰を大事にする。信仰の対象である本尊が不在の寺は、寺とは言い難い。

檀家の落胆は大きく、致し方なく檀家がそれぞれ拠出し、100万円を集めて、新たに仏像を造ることになった。しかし、新しいピカピカの仏像は、古刹の本尊には不似合いであった。

ところが3年ほどが経過したある日。檀家が地域の古美術商を訪れ、B寺の盗まれた阿弥陀如来像が売られているのを発見した。販売価格は100万円だった。

檀家は古美術商にたいし、盗まれたものだから、戻してもらえないかと説得。しかし古美術商は「うちも仕入れが生じているのだから、タダで譲るわけにはいかない。仏像は知らない人間から買った」と拒否した。この古美術商が盗難品とわかって買っていたのは見え見えであったが、致し方ない。

檀家全員は悔しがったが資金を出し合って、買い戻すことになった。

結局、B寺には新旧2体の本尊ができてしまった。新しい仏像はA寺が50万円を出して引き取ることになった。