7人の名前が入った7枚のマスクで人種差別に強く抗議

9月12日のテニスの全米オープン女子シングルスで、大坂なおみ(22)が2年ぶりの優勝を決めた。今回は胸のすくような力強いプレーだけではなく、大坂の着けたマスクにも世界中から注目が集まった。

2020年9月8日、全米オープンテニス大会9日目の女子シングルス準々決勝の試合で、ジョージ・フロイドのマスクをつけた大坂なおみ(日本)が米国のシェルビー・ロジャースに勝利した後、スタンドに向かってボールを打ち込む。
写真=Sipa USA/時事通信フォト
2020年9月8日、全米オープンテニス大会9日目の女子シングルス準々決勝の試合で、ジョージ・フロイドのマスクをつけた大坂なおみ(日本)が米国のシェルビー・ロジャースに勝利した後、スタンドに向かってボールを打ち込む。

大坂は黒いマスクに白人警官らに殺害された黒人被害者の名前を白い字で刻み、決勝までの7試合の入退場の際などに着用した。男女計7人の名前がそれぞれに入った計7枚のマスク。アメリカ社会の根深い人種差別に強く抗議し、大きな効果を上げた。

大坂にとっては自らを崖っぷちに追い込む賭けでもあった。途中で敗退すれば、約束した7枚のマスクは着用できない。大坂のテニス人生にも大きな傷がつくことになる。

8月に黒人男性が警官に殺害される事件が起きると、次のメッセージを出して、試合に出ないと表明したこともあった。

「私はアスリートである前に1人の黒人女性。私のテニスよりも、今は注目しなければいけない大切な問題がある」

このメッセージは大きな反響があった。とてつもないプレッシャーを受けながら、大坂は全米オープンで見事に結果を出した。

「スポーツに政治を持ち込むな」といった批判もあった

大坂なおみは、父親がハイチ出身、母親が北海道生まれ。大阪で生まれ、国籍は日本だが、3歳のときからアメリカに住んでいる。

トランプ大統領はハイチについて「その貧困さはまるでゴミだめだ」と嘲ったことがある。大坂はそのハイチの歴史について父親から多くの話を聞きながら育った。これが彼女の原点であり、人種差別の撤廃を求めるエネルギーの源となったのだろう。

大坂のブラックマスクに対しては、「アスリートは競技だけをやって余計なことを口にすべきではない」とか「スポーツに政治を持ち込むな」といった批判もあった。それでも大坂は、ツイッターでの投稿やデモへの参加を続け、全米オープンではブラックマスクも着けた。批判に動じず、アスリートとして信念を貫いた。

アメリカでは黒人が警察官に不法に扱われて命を落とす事件が相次いでいる。それでもトランプ大統領は人種差別撤廃に消極的で、むしろ大統領戦を見据えて白人層の支持を固める発言を繰り返している。自国第一主義によってアメリカ社会に深刻な分断を生んだトランプ大統領は、大坂なおみのブラックマスクをどう思っているのだろうか。