次に迎える収入減が60歳の「定年」だ。ここでは、「再雇用」でそのまま会社に残るか、それとも引退ないしは別天地で仕事を探すかという選択を迫られる。再雇用なら「月収30万円・年収360万円というケースがざら」(深野さん)であり、それを嫌って選択しない人がいる。しかし、藤川さんは思いとどまるようにアドバイスする。

「別な働き口で、年収360万円を得られる人がどれだけいるのか疑問です。それなら年金受給が始まる65歳まで、安定した収入を得る道を選ぶべきでしょう。そして、月収30万円で賄えるよう家計を見直しながら、来る年金生活を迎える準備を進めるべきです」

図は「全国消費実態調査」で見た年代別の家計の収支。50~54歳では月5万271円の黒字なのに対して、定年後の60~64歳では月4万6815円もの赤字に転落している。子どもが社会人になって教育費が減るものの、食料の支出が減るわけでもなく、貯蓄の取り崩しが始まる可能性が高い。

60歳を超えると途端に収入で支出を賄えなくなる厳しい現実

65歳からの年金の標準的な支給額は夫婦2人で22万724円(2020年度・新規裁定者)。収入は200万円台に減るわけで、家計の見直しは早くするほど後が楽になる。その「年金生活」での家計の負担になるのが住宅ローンの返済で、「毎月8万円前後の返済が75歳くらいまで続く人もいます。現役時代にできるだけ繰り上げ返済を行って、年金生活での負担軽減を図っておくことも大切です」と深野さんは言う。

夫が亡くなると年金は4割ダウン

大手企業のビジネスパーソンであれば、基礎年金と厚生年金に加えて、「企業年金」という“3階部分の年金”が支給されることが多い。実際には、10年か15年の間にわたって確定した金額を受給する人が大半で、70代後半になると受給が終わる。ただし、藤川さんも深野さんも、心配はしていない。

「この年代は支出が抑えられているからです。食が細くなって、少ない食費で済みます。外出する機会が減って、交際費や娯楽費などもかからなくなります。ですから企業年金が終わっても、途端に生活が苦しくなることはまずありません」(深野さん)

さらに、80代になってくると考えなくてはいけないのが、「配偶者の死去」である。平均寿命が女性87.32歳、男性が81.25歳であることを見てもわかるように、夫が先立って妻が残されるケースが多い。その際に影響が出てくるのが年金の支給額だ。