「違う統計法で行えば、有意差が出ている結果もありえる」

「『統計的有意差がない』と一言で言っても、統計手法にはさまざまなやり方があります。ただし、私たちがあとから研究結果のいいところだけをつまみ食いしたような解析にしてはいけないので、事前に決めた順番で解析していきます。ですから違う統計法で行えば、実は『有意差が出ている』結果もありえます。

アビガンはなぜ効く? その作用メカニズム

査読(学術誌に論文が発表される前に同分野の専門家が行う評価)を経る『論文』と違い、『プレスリリース』では事前に規定された統計手法で、一番重要なデータをなるべく簡潔に示すのが正しいやり方ですから、そのように報告しました。しかし、発熱期間をとっても3割程度短縮されているので、医学的に意味のあるデータだと思います」

200人程度の患者を集めれば、有意差を得られた可能性が高い

中国は20年2月に、アビガンの後発薬が新型コロナ患者の解熱までの期間を大幅に短縮したという臨床試験の結果を発表した。ロシアでは20年8月に、アビファビル(ロシア製のファビピラビル)を服薬した患者の62%でウイルスが陰性化したと、服薬しない群(約30%)と比べて倍程度のウイルス量減少の有効性を報告している。

「ウイルス量について、なぜ私たちの研究で予想より差が小さかったのかは、いまだにわかりません。中国やロシアの研究では鼻奥のぬぐい液でPCR検査をする、つまり同じやり方で研究を行い、大きな差が出ています。

ですので私は日本の監督下で行う研究で、日本製のアビガンの有効性が示せる日がどこかの段階でくると思います。私たちの研究でも200人程度の患者さんが集まれば、有意差が得られた可能性が高いのです」

それではなぜそれだけの患者を集めなかったのだろうか?

「20年2月末に研究を始める頃は、国内で新型コロナの患者さんはまだほとんどいませんでした。ですから実は当初、20人くらいの患者さんを研究対象にしようかと考えていたんです。しかし、院外の統計家の先生からそれじゃあ全然ダメだと。中国で行われたアビガンの後発薬の臨床研究データから、86人の患者が参加すれば統計的有意差をもって効果が確認できる可能性があるとわかったため、『86人』という目標人数を設定しました。

でも当時はそれでも、エベレストに登るくらいの遠いイメージでしたね。『半年で結果を発表』という目標も立てていましたが、最初のペースでは1年かかるのではないかと思いました。しかし20年3月の終わり頃から20年4月に“第1波”がきて、一気に目標人数に達したのです」

ところが、20年5月の連休明けに、新型コロナの患者は大幅に減少する。