多くのメディアは「効かない」しか報道しなかった

「新型コロナにアビガンは効かない」――私もそのような認識でいた。そのため取材時の土井教授の発言に驚き、そして一メディアとして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。本来、研究結果の見方は1つではないはずだが、多くのメディアは一方向からしか報道しなかったということだろう。

藤田医科大学医学部教授 土井洋平氏
藤田医科大学医学部教授 土井洋平氏

藤田医科大学のアビガン特定臨床研究のプレスリリースによると、新型コロナ患者89人に研究に参加をしてもらい、そのうち44人が「アビガン通常投与群」(1日目から内服)、45人が「遅延投与群」(6日目から内服)に無作為に割り付けられた、とある。

「こういった研究を行うときには『検証したい薬を服用する群』『プラセボ(偽薬)を服用する群』という2群が一般的で、またそれがベストではありますが、今回は偽薬を用意する時間的余裕がなかったのと、また新型コロナによる社会的不安がピークになっていたので、半分の方に偽薬を飲んでいただくという研究は患者さんの理解を得にくい可能性がありました。

やはり服薬したほうが発熱期間が短くなる

そこで全員が内服する。けれども服薬するタイミングをずらす、という形にしたのです。最初の5日間については、『通常投与群』しか内服しないわけですから、服薬していない場合との直接的な比較ができます。ただし短所としては、6日目以降は遅延群も服薬を始めるので、長期的な比較はできません。あくまで最初の5日間の比較です」

実はそれでも、「対:偽薬」で行う研究との差は出てきてしまう。なぜなら偽薬を使う場合は、患者もその主治医も、本物の薬か偽薬かのどちらのグループであるかを知らされないことが多い。しかし土井教授のグループが行った研究では、遅延投与群は6日目まで内服できないため、「なんとなく調子が悪い気がする……」というバイアス(先入観、思い込み)がかかりやすいのだ。

「ですから評価項目には、『だるい』『頭痛』などのような主観が入る可能性のある症状よりも、数値として示せる『ウイルス量』『体温』などの項目を主軸としました。プレスリリースではその信頼性の高いデータを発表したのです」

その結果、6日目までの累積ウイルス消失率は、通常投与群で66.7%、遅延投与群で56.1%。遅延投与群が内服を開始する前の結果であるため、ウイルス量はアビガンを服薬したほうが消失傾向にあるといえる。また、「37.5度未満への解熱までの平均時間」は通常投与群で2.1日、遅延投与群で3.2日で、やはり服薬したほうが発熱期間が短くなるのだった。