――人員や費用の支援が難しい場合、スムーズな臨床研究を進める策は?

「医療機関がもう少し簡単に研究に参加できることでしょう。例えば私たちが研究に参加してくれる病院を募り、A病院が参加したいと連絡をくださってやりとりをしたとします。現状ですと、実際にA病院で新型コロナの患者さんの研究がスタートできるようになるまで、平均すると1カ月くらいかかってしまうのです。

今回、我々の研究に100以上の医療機関から希望があったのですが、最終的に研究に参加いただけたのはその半分以下でした。その大きな要因は、手続きが大変で時間がかかることです。日本の臨床研究を行う枠組みは堅牢で透明性があり、優れたシステムでしょう。しかし一刻一秒を争う今回のような状況では、もう少し柔軟な運用ができるといいと感じました」

医療機関を奪い合わないためには

「あとこれは夢物語かもしれませんが……」と土井教授が続ける。

「新型コロナに関しては、今は各大学がバラバラに臨床研究をしている状況です。別にそれぞれが自分の手柄にしたいと思っているからではなく、構造的にそのようなやり方でしか研究できない仕組みなんです。すると結果的に『研究に参加できる医療機関』を奪い合うような形になってしまいます。全国の100なら100の医療施設と複数の大学が共同で連携して研究できるような仕組み、しかも研究に参加する医療機関のほうもAからEまでの治療薬を患者さんに応じて選べると、このようなパンデミックな感染症のときに研究結果が効率的に出せると思います」

そして私たち国民にも協力できることがある。もし自分が患者の立場になって、土井教授の研究グループが行ったような臨床研究(介入研究)の提案を医師からされたら、内容をよく吟味したうえで協力できそうであれば参加することだ。

観察研究では「医師が投与しようと思う状況」が前提に

現在も同大学で続く「観察研究」は、医学的にアビガンが必要と判断された患者が服用した経過を追跡するもの。似ているようで、「介入研究」と「観察研究」の2つは全く違うものである。観察研究で多くの患者の情報を集めても、服用しなかった患者との違いを厳密に比較しなければ、科学的に薬の有効性を裏付けることはできない。

「介入研究では、患者さん同士の差は『アビガンを投与されたか、されていないか』の一点になるように、研究対象者をランダム(無作為)に選び出します。また研究を遂行する手順も、検体採取や体温測定などのタイミングが厳格に決められています。

しかし観察研究では、『医師がアビガンを投与しようと思う状況』が前提ですので、病の重症度が高い方が多い。ですから、死亡率という観点でいえば、むしろ高くなる傾向にあるでしょう。また投薬も通常の診療として行われるので、ルールに基づいてきちんと情報を集められるわけではありません。観察研究では症例数はどんどん増えていくので、薬の副作用については有用なデータが蓄積されます。一方で有効性については介入研究よりは科学的信頼性の低いデータとなります」