アビガンの副作用については、妊娠中の女性が飲むと奇形の赤ちゃんが生まれる恐れがあると指摘されてきた。そのほか尿酸値が高くなる副作用も報告されていたが、土井教授の研究でも8割の患者にその傾向が見られたという。

「インフルエンザで試験されたときよりも、新型コロナの治療薬として投薬したほうが尿酸値が上がる人の割合が断然高かった。アビガンは一定の内服量を超えると尿酸値が上がるようですね。しかし内服が終わって再検査をすると回復していましたから、大きく心配するようなものではないと考えています」

医療の本質は「白か、黒か」では決まらない

実は土井教授とは20年2月に別件の取材でお会いしている。そのときと比べるとずいぶん疲れた様子で心配になり、睡眠時間や体調を尋ねると「いやいやもう“どん底”は抜けまして……」と笑う。

「『データを隠しもっているんじゃないか』など、一般の方からも含め多くの問い合わせがあり、得体がしれないパンデミックがもたらす社会不安を感じました。新型コロナに限らず、医療の本質は白か黒かでは決まらないことが多い。どんな病気であっても、患者さんから『必ず良くなりますか?』と聞かれたら『良くなりますよ』とは答えますが、“必ず”とは言えません。同様に研究結果であっても、“確定”はなかなか下せないものです。

イギリスで1万人近くの方を対象にステロイドの効果が調べられ、『重症患者にステロイドを併用すると死亡率が3割下がる』と『ニューイングランドジャーナル』という著名な雑誌に発表されました。しかしそれさえも『偽薬を立てて検証しないとダメだろう』と報道で指摘されてしまいます」

大前提として新型コロナは、ほとんどの人は治療なしで良くなっていくことを忘れてはならない。ただ一部、高齢者などに重症化する傾向がある。

「この薬があればバッチリ効きますというのは難しく、進行を遅らせる、退院が早くできる、熱が早く下がるなどの効果を示せるものが治療薬の候補になる」と土井教授は言う。

「私たちの研究結果でアビガンが承認されることはありませんでした。けれども企業治験の結果がメインとなって、トータルで考えたときの判断材料として、有効に活用してもらえればと思います」

富士フイルムは20年8月、治験の数が揃ったため、約1カ月後にすべてのデータを明らかにすると発表した。そのとき、土井教授のチームが行った研究がその後押しとなるだろうか。

土井洋平(どい・ようへい)
藤田医科大学医学部教授
ピッツバーグ大学医学部准教授。日本感染症学会感染症専門医、米国感染症内科専門医。1998年名古屋大学卒業。2018年より現職。20年、同大学が行った新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬「アビガン(ファビピラビル)」の臨床研究の研究代表医師を務めた。
(撮影=藤田学園 写真=Getty Images、時事通信フォト)
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