短期間に目的を達成させる新しい戦争形態

戦争形態の変化は、軍隊の変化につながります。こうした短期間での目的達成のためには、性能の高い兵士が必要です。このため、常備兵力で対応することが常態になりました。

国民を招集し、基本的な新兵訓練を行い、限定的な戦闘レベルの兵士を急増させ、戦争に投入する――それまでの「消耗戦型の軍隊」は消えたわけです。戦闘レベルの高い部隊や特殊部隊のような能力を有する部隊の運用が多くなってきたのも新たな特徴といえます。

日本もこうした戦争形態の変化と無縁であるはずがありません。中国然り、北朝鮮然り、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わってきているのです。

今さら「突撃訓練」でもないと私が書いてきた理由がおわかりいただけるでしょうか。

冷戦時代、対ソ連で考えられていたのは、ソ連軍が大船団を組んで北海道に着上陸し、大量の砲兵に支援された戦車と装甲車を主体として侵攻してくる、といったシナリオです。それを地形が狭まっている隘路あいろ地域において阻止をしようと考えていました。戦闘を行う場所は当然、原野。訓練もその想定のもとで行ってきました。

冷戦終了後、日本の情報収集能力が向上し、事前にロシア(旧ソ連)の行動を察知することができるようになりました。ロシアもまた航空機の性能が向上し、誘導ミサイルが発達したことなどにより、わざわざ大船団を並べてまで侵攻する利点はなくなりました。

さらに、米国、ロシアを始め各国は、大きな人的な損害が発生することを嫌い、また長期間の戦費の支出による国力の低下にも耐えられない経済環境になっていました。

リアルより「マニュアル」を優先させる原因

しかしその一方で、ソ連崩壊と冷戦終結により、自衛隊はどこの国を仮想敵として訓練すればよいか、その対象を失ってしまいました。このとき、陸上自衛隊は、何をどのくらい訓練すればいいのかという問題に直面することになったのです。

侵攻してくる相手国がわからないからといって、いざという時に国土を防衛する能力は失っては話になりません。そのための訓練は、基本的な攻撃と防御の訓練を交互に行い、バランスよく実施しなければなりません。

しかし、具体的に戦う仮想敵が明確でないため、実戦的な訓練というよりも、どちらかというと、戦いの原則や指揮手順を記載した「教範」通りに確実に行うことを求める訓練内容が主流とならざるを得ませんでした。リアルよりマニュアルが優先されたわけです。実戦的な訓練をするという観点が薄れていくのは、自然の流れだったのかもしれません。