ただ、そうはいっても、前述のように戦争の形は「国家対国家の大規模な総力戦」から「限定的、短期終結」型へと変化していきます。同時に従来は使用が想定されていなかった市街地が、戦場として新たなフィールドとして浮かび上がってきました(そのことは新著『自衛隊は市街戦を戦えるか』で詳述しています)。

塹壕を掘って、突撃訓練をしている場合ではない

繰り返しますが、日本を取り巻く安全保障環境の変化は劇的です。中国の航空機の近代化への対応に加えて、中国海軍・空軍による第一列島線(九州—沖縄—台湾—フィリピンを結ぶ線)から第二列島線(小笠原諸島からグアム・サイパンを含むマリアナ諸島群などを結ぶ線)への影響力の拡大や、南沙諸島の軍事拠点の既成事実化に対応することが我が国の急務になっています。

二見龍『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)
二見龍『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)

そのために、航空自衛隊では部隊の新編、海上自衛隊では艦艇の近代化や水陸機動団の新編による南西諸島の防衛能力強化が進められ、弾道ミサイルに対する防衛能力も高められています。昭和の時代や冷戦終結後では予想できなかったスピードで、現実に対応した動きが進んでいます。陸上自衛隊もまた、取り巻く環境が変わりつつある中、隊員の訓練(ソフト)と個人装備(ハード)の改善と強化が求められている時期にきたのです。

国際貢献の場においても市街地で活動することが常態化しています。市街地で戦闘が行なわれ、自衛隊が巻き込まれる可能性もゼロではありません。こうした現状を鑑みれば、訓練の内容も変化しなければならないはずです。

14~15万人にものぼる陸上自衛隊の隊員たちの通常訓練の実態はあまりにも知られていません。願わくば多くの人に実情を知っていただき、過酷な現場に実際に赴かねばならない隊員たちに真に必要なスキルとは何なのか、今後の自衛隊がどうあるべきか、ほんの少しでも思いを馳せていただけたらと祈ってやみません。

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