岩本は、西武百貨店の1番いい時代を経験し、途中で外資系製薬会社のロシュに社内留学していたこともある。グローバルカンパニーでIT戦略の基礎を学び、本社があるスイス・バーゼルに来ないかと誘われもした。西武の後は、コンサル志望者なら誰もが憧れるアクセンチュアに入り、赤坂御所を見下ろす快適なオフィスで勤務していた。
その岩本がつぶれかけたスーパーを目にして、どれほど途方に暮れたのか、想像に難くない。
現場で起きていることは現場に聞け
しかし、ミッションは果たさなければならない。途方に暮れているひまなどない。理論は通用しないことを悟った岩本が最初にやったこと。それは、みんなと飲みに行くことだったという。なんというプリミティブな初手。
「現場で働く人と人との信頼関係を取り戻すことが先決でした。地方ではこうした浪花節が欠かせないんですよ。まずそこからはじめて、現場で起きていることは現場に聞いていった。売り場に立つパートの女性にもいま何が問題なのかを聞いて、とにかくウオエイが抱える問題点を把握しようとつとめました」
おそらく、社員もパートも親会社から送り込まれた社長がどれほど本気なのか、すぐに逃げ出すのではないかと疑心暗鬼だったに違いない。岩本は酒を酌み交わしながら話を聞き、現場の声に真摯(しんし)に耳を傾け、従業員の不安を払拭(ふっしょく)し、「再生に賭けている」姿勢を示した。
これが岩本のファーストステップ。だが、真の目標は、ウオエイを情けないスーパーから普通のスーパー、さらには一人前のスーパーに育て上げることだ。商品力、売り場改革、改装計画、業務改革、教育の5つの柱で改革を実践していかなければならない。とはいえ、1度にすべては実現できない。一気にやれば消化不良を起こすのは目に見えていた。