米国の協力が仰げるとは限らない
これを単なる絵空事と切り捨てるのは簡単だ。しかし、そうはできない理由は、尖閣諸島周辺に侵入した中国海警局の船や漁船と海保との偶発的なトラブルが一気に「開戦」に向かうリスクになりえることはかねて指摘されてきたからだ。中国の禁漁期間は8月16日に終わり、中国漁船が大量に操業することになるが、海保がこれらを拿捕した場合はどうだろう。逆に中国側に日本漁船が拿捕されることもありえる。その時に日本と中国はそれぞれ互いの立場を主張し、「領海侵犯を取り締まっただけ」というだけかもしれない。
しかし、偶発的にでも一度衝突が起きれば双方の監視・警戒活動はエスカレートし、さらなる衝突が発生しない保証は全くない。たしかに日米安保条約5条には、日本の施政下にある領域における米国の「対日防衛義務」が明記され、米国のマーク・エスパー国防長官は7月21日、「中国の人民解放軍が日本の施政下にある尖閣諸島の周辺海域に侵入する回数も時間も増やしている」と発言している。尖閣諸島は安保条約5条の適用範囲ということであるが、いま注目されているのは実際に武力攻撃が発生した場合に、米国はどの程度まで「協力」してくれるのかということだ。結論から言ってしまえば、それはいくらリップサービスをされようが「その時にならなければ分からない」。米国がメリット、デメリットを計算した上で先のシナリオ⑤のように判断しないとも限らないのである。中国はそれを試すようにジワリと領海侵入を継続しているように映る。
これでは日本はすでに中国の属国
安倍総理は「領土・領海・領空を守り抜く」と掲げて2012年末に政権奪還を果たしてから7年半も経つが、「外交の安倍」などカッコいいキャッチフレーズは聞こえてくるものの、目に入ってくるのは中国への配慮ばかりで実態は全く違う。政府による尖閣諸島の調査も1979年を最後に行われていないというからあきれてしまう。さすがに、自民党の保守系グループは黙っておらず、「日本の尊厳と国益を護る会」が8月15日、尖閣諸島周辺の領海で中国船が不当な漁労を行った場合には国連海洋法条約に基づいて拿捕するなど厳しく対処するよう求める提言を岡田直樹官房副長官に渡した。ただ、政府関係者からは「いま波を立てるべきではない」との声も聞こえてくる。一体、いつなら良いのか。すでに属国という気になっているのだろうかと疑ってしまう。
誤解を恐れずに言えば、新型コロナウイルスの危機から世界で最も早く回復する中国が世界経済の覇者になるのは時間の問題だ。その勢いで軍拡路線を突き進めば、軍事力は格段に増し、海洋進出も激しくさせていくだろう。現在は米国が「ナンバーワン」であるのは間違いないが、永遠に繁栄し続ける国はないということは小学生でも知っている。日本は日米同盟に依存する選択を選んできたが、中国の国力が米国を抜いた時に情勢はどのように変化するか。いつまでも「ドラえもん~」と泣いているだけの「のび太君」ではダメなのは言うまでもない。決して遠くない将来を見据え、キャッチフレーズを躍らせているのではなく、自分の足で立ち行動すべき時を迎えている。