「変化球も投げられる」仕事の仕方を学んだ

コミュニケーションを大事にする。そんな仕事姿勢が、五十嵐さんに深く根付いたきっかけがあった。

店舗勤務、アシスタントSVを経てSVになり5年ほど経った頃、五十嵐さんは上司から「お前は直球しか投げない。たまには変化球も投げられるように工夫しろ」と助言されたことがあった。しかし、何をどう直したらいいのか、分からずに悩んでいた。

そんな時、担当している店舗オーナーの1人に、販売施策に関わる提案をしてもなかなか首を縦に振ってくれないという問題が発生。何度訪ねて話しても納得してもらえず、とうとう「もうお前の顔は見たくない」と突き返されてしまうほどに。打開策を見いだせないまま、担当を替わるという結果になってしまった。

毎日4店舗は回り、オーナーやクルーと話をする
撮影=森本真哉
毎日4店舗は回り、オーナーやクルーと話をする

引き継ぎの挨拶のために向かった最後の訪問日、若き五十嵐さんは思い切って訪ねてみた。

「どうして私の提案を聞いてもらえなかったんでしょうか」

すると、オーナーは教えてくれた。「五十嵐君は会えばすぐに仕事の話ばかりで面白くないんだよ。もうちょっとくだけた話もしてほしかった」。

上司の言葉が脳裏に浮かんだ。その意味を痛感した五十嵐さんは、“伝え方”に強く意識を向けるようになったという。

「例えば、『おにぎり商品を夕方に充填して、売上増につなげてほしい』との提案を伝えるだけではなく、『先週末に子どもたちと公園で遊んだ後、夕食前の腹ごしらえでおにぎりを買おうと店に寄ったら売り切れでね。子どもたちもガッカリしたんですよ』と消費者目線で伝えてみる。それだけで、相手は受け入れやすくなります。鋭く曲がる変化球は無理でも、緩やかなナチュラルカーブぐらいはできるようにとがんばりました(笑)」

「今逃げたら終わりだ」と思った

なぜその施策が必要なのか。理由まで納得してもらって初めて相手を味方にできる。理解してもらうために、「人と人とのコミュニケーション」を日頃から大切にする。今やそんな流儀が染み付いた五十嵐さんには、担当を離れて10年以上が過ぎても、年賀状を送りあったり、電話で近況を伝えあったりといった関係が続く相手が何人もいるという。

「あの時、自分を拒絶したオーナーさんに、勇気を出して聞いてみてよかったと思います。率直に理由を教えていただけたこともありがたかった。何で聞けたか? きっと、『今逃げたら終わりだ』と思ったんでしょうね。あの時に学べたことをずっと課題として心がけ、自分自身の成長につなげられました」